第13話 地球人とルナリアンとノリブ

 今日も、食料調達兼調査にでかける。

 実の生っている木を見付けたので取ってみた。大きさはこぶし大で、イガイガがついていて触れない。

「食べられそうなのに、割れそうにないな」

 言って横を見ると、エドが手でイガの付いた殻を割って、中味を出していた。

「凄いな。痛くないのか」

「ああ、地球人はそうか。俺達は、皮膚や筋肉、血管が強いからな。ケガをするからやめておけ。ほら」

 そう言って、中味をよこした。

「栗みたいだな。焼くか」

 半分をエドも口に入れ、うん、と頷く。

「焼き栗みたいになるぞ」

「デザート確保だな」

 いくらか取って、ハンカチに包む。

「景色は、代わり映えしないな」

「ああ。観光ガイドの作り甲斐がない」

 赤い地面に、低木、少しの草むら。川は1本。徒歩で行けない辺りまで行くと、変化があるのかも知れないが。

「一日の時間は23時間と20分。とりあえずの気温は22度前後。公転周期がわからないから一年を通しての気候変化は不明。赤い土と岩でコンパスが効かないから、鉄鉱石が多いんだな。

 ここ、どこか当てはまるところってあるか?俺は知らない」

「俺も知らんな。未知の惑星か?」

「・・・未知の惑星なんて、活動範囲にはないだろ。という事は・・・」

「よっぽど遠くに、飛ばされた・・・?」

 俺達は無言で、その恐ろしい推測を否定する材料を探した。が、お手上げだった。

「このまま2人で過ごすのかな」

「俺と砌じゃ、次世代も生まれようがないな。ただの悲劇か冒険譚だな」

「冒険か。それはそれで楽しそうだな」

「ああ」

 肩を竦めて調査を続ける。


 夕方前に例の水辺に戻り、カニ漁(?)をしようとしたら、敵がいた。昨日の魚をくわえた、ワニのようなやつだ。そして岸部には、食い散らかされたカニの残骸があった。

「何だ、ここは。危険生物が次から次へと・・・」

「くそ、おれのカニをーー!」

 エド、お前のカニじゃないぞ。でも、よっぽど気に入ったんだな。

「砌。あいつをやるぞ」

「え?」

「カニの恨みーーじゃない。あれがいたら、食料確保が困難だ。だから、やる」

 目が本気だ。

「どうやって?どう見ても固いぞ、ウロコが。栗と違って攻撃もしてくるし」

「攻撃か。歯は鋭そうだな」

「ああ。それに、尾が危ない。ワニと同じならな」

 2人で、考え込んだ。


 そして、エドが前から、俺が後ろから接近した。

「くらえ!」

 エドが栗を投げつけ、目に当たった。

「グオオオオ!」

 痛かったのだろう。あれは痛いに決まっている。ワニは怒りの声を上げて、牙を剥いた。

 その口の中に、更にエドは栗を投げつける。喉の奥まで。鬼か。

「グオオオ、グアッ!?グギャアア!!」

 物凄く痛そうだ。ワニは身をくねらせ、尾をビタンビタンと振り回して反転した。

 栗の当たった方の目から血が出ており、喉の奥と口の中が痛くて口を閉じられないらしい。恨みのこもった涙目でこちらを見ている。

 え?俺?

「砌!」

「うわ!」

 喉の奥に向かって銃を撃つ。

「ギャウ!!」

 一声鳴いて、ワニは死んだ。と思う。

 エドと俺はそろそろと近付いてみた。映画なら、ここで突然暴れ出すとかありそうだ。

 足元のカニの残骸を投げてみる。無反応だ。

「やったか?」

「やったぞ!」

 こうして俺達は、クロコダイルハンターの称号を得た!

 と、上空から何かが飛来する。

「エド、後ろへ飛べ!」

 言いながら自分も避ける。

 十数羽の、鳩くらいの大きさの鳥の集団だった。それが、カニの残骸を狙って来る。今までは、ワニがいたので近寄れなかったのだろう。

 と、俺とエドも、邪魔者としてかエサとしてか認定されたらしい。とにかく色んな方向から乱舞して襲って来るのだ。

「こいつら、ハイエナか!」

「ハイエナは飛ばない!」

 いかにルナリアンと言えども、これは痛いだろうし、目をやられたらアウトだ。

「エド、目をかばってろ!」

 言い、エドに群がるやつを左手の銃で撃ち、俺に来るやつを右手のナイフで切り払う。

 それを何度か繰り返している内に、地面には鳥の死体が何羽も転がり、残りの鳥は逃げて行ってしまった。

「助かった・・・」


 調理方法は、相変わらず「焼く」の一点張りだ。ただし、葉っぱで包んでの「蒸し焼き」が加わった。

「ワニと鳥と魚。豪勢だな!」

「量もたっぷりあるぞ!」

「鰐皮まであるしな。ナイフケースでも作るか?」

 俺達は上機嫌でワニとワニがくわえていた魚と襲って来た鳥を夕食にしていた。

 はっ、いかん。このままだと、原始人になりそうだ。やはり、帰る方法を考えないと。

 向こうも同じ結論に思い至ったらしい。俺達は、同時に嘆息した・・・。

「しかし、砌は器用だな。右と左で別の攻撃をして、当てていた」

「そうか?ああ、まあ、言われるかな」

 恐らく、フェアリーに乗っている事と関係がありそうだ。誤魔化さないと。

「面白いやつだな」

「お前も相当面白いぞ」

 笑って、話題を変える。

「この辺りはこんなものだろ、調査も」

「そうだな」

「そろそろ卵を考えよう。孵ったら、恐ろしい事になる」

「ああ。俺も気になっていた。どのくらいで孵るのかは知らんがな」

「なあ、ふと思ったんだが、ルナリアンはノリブDNAを取り込んだだろ。ノリブって、ルナリアンにとってはどういう存在なんだ?」

 エドは即、

「天敵だ。決まってるだろう。あれはヒトを見たら襲って来る」

と答えた。

「ルナリアンは、月、そして放浪する宇宙船という過酷な環境の中で生きて行くために、肉体的に強くなければならなかった。それには、ノリブの対G性能、外表皮の固さというのがうってつけに見えた。それで、DNAを獲得したんだ。あとは、自然に子供に受け継がれていく。

 それでも、ノリブが襲って来る事は変わらないし、俺達にとっても天敵という事に変わりはない」

「地球人もルナリアンも、同じヒトだもんな。発生も文化も言葉も同じ」

「ああ。大した違いなんてないよ」

 それなのに。その言葉は、お互いに呑み込んだ。



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