第11話 遭難と共闘

 それは、イギリスのストーンヘンジに似ていた。円形に岩が並んでいる。直径は3メートル程か。

 ただストーンヘンジと違うところは、謎のそのオブジェは、地面の上ではなく、宇宙空間に浮いていた事だ。

『何だろうねえ、あれ』

 あすかは発見されたこのオブジェの観察と調査に派遣されており、俺、真理、明彦は、すぐ傍で警戒任務についていた。

『たまたま岩があんなふうに並んだとか、誰かが並べたんだぜ、きっと』

「積み木か?」

 本当はこういうのは試験艦むろまちの仕事なのだが、生憎むろまちは別の任務で遠くにいた。

 ヒデ達が色々な機材で調べているが、宇宙線が検出されているというのが今の所わかった事だ。

『ちょっと手伝ってくれ。そうだな、ミギリ。アキとマサトは周囲の警戒を続けてくれ』

「はい。

 んじゃ、行って来る」

 ヒデに呼ばれて、コクピットのハッチを開け、岩の一つに取り付く。

『これを持って、反対側に行ってくれ』

 十文字の位置に測定器を設置し、色々と調べるらしい。

「はい」

 ヒデの向かい側、ユウとタカの間に入る。

 それで言われた通りに、測ったり、何かを放射してみたりと、よくわからないが色々とやってみた。

「ん?何だろう、これ」

 手を伸ばせば届くところに、小さな赤い欠片がある。

『どうした?』

「何か、小さくて赤い固そうなものが落ちてますけど」

『何だろうな。採取できそうか?』

「はい」

 岩から手を伸ばして、俺はヒョイとそれを掴んだ。

「え?」

 イセエビとかカニを思い出した。

 指の先で触れたその赤いのを中心にサークル内が水面のように波打ち、赤いのが向こうへズブズブと沈み込む。

「え?何、ちょっと?」

 あっという間に、俺はサークルの向こうへと行ってしまった。

 常識で考えたら、ただ岩の輪を潜っただけの事だ。それなのに、俺の目の前には人が入れそうな大きさの卵が並んだ洞窟が広がっていた。

「何で?」

 振り返ると、慌てて手を伸ばすユウが見えたが、一瞬で、虹色のスクリーンのようなものが閉じていって見えなくなった。

「・・・鏡の中のアリスじゃああるまいし」

 GPSは効いていない。通信も途絶している。

 遭難の文字が頭に浮かんだ。

「まじか・・・」

 とりあえず、辺りを見廻した。重力はある。地球と似たり寄ったりか。それに洞窟内の壁にヒカリゴケのようなものが生えていて、ぼんやりと明るい。卵はいくつあるのかわからないが、50や60ではないだろう。洞窟内はゆったりとしたカーブを描いていて、カーブの向こう、通路の先は見えない。

 反対側は行き止まりらしいが、何か、大きな岩がドーンとある。

 いや、岩?岩にしては、上の方に2本細長い何かが植わっていて、下の方には根のようだが根にしてはしっかりとした太さのものが等間隔に近い感じで4本程飛び出ている。

 それにじっと見ていると、時々ブルッという感じで動いて、濡れたような音がする。

 これは、岩というよりも、生物か?昆虫とかの。この卵を産んだやつか、もしかして。

 俺は音を立てないように注意し、気配を殺して接近した。

 叫ばなかった自分を褒めてやりたい。そこにいたのは、産卵中の女王ノリブだった!

 静かに、慌てず急いでそこを離れる。

 通路の先へと進むと、外へと出た。低い岩山の中腹といった感じだった。地面の色は赤く、火星を思い起こさせる。岩山の周りは雑草のようなものが生えた砂地で、100メートル程先には、崖のようなものがずっと続いていた。

 その崖の向こう側は低木らしきものがポツポツと生える草地で、所々に、ポツンと赤いテーブルのような岩が転がっている。

 空は青いが、ほぼ一面を雲が覆っている。水蒸気が雲を作っているという事か。そして、大気組成は不明だが、空気が存在しているようだ。

 動くものは、視界内に確認できない。

 ここでもやはり、GPSも通信も使用できなかった。地面がやはり鉄分なのか、方位磁石も役に立たない。

 どうしたものだろうか。サバイバルキットも持ってないしな。

「歩いてみるか」

 水や食料が見付かるといいんだが・・・。

 俺は岩山を降り、崖へ向かってみた。

 ヒョイと覗き込んでみると、川だった。川幅は7メートル程度だろうか。深さは不明だ。

「水質、は・・・どうやって調べよう」

 手ぶらは本当に困る。

 川沿いに歩いていると、飛び石のように岩が川の水面に頭を出しているところがあったので、それを伝って向こうへ渡る。

 と、信じがたいものが目に飛び込んで来た。

「人ーー!」

 金髪の人が、岩のテーブルの上に倒れていたのだ。見に着けているものは、白っぽいつなぎーーパイロットスーツか?その上半身を脱いで腰で袖を括ってまとめ、上半身は下のインナー1枚だ。

「おい、大丈夫か」

 脈拍は・・・触れる。呼吸・・・自発呼吸をして・・・ん?もしかして、これ、単なる昼寝か?

 あまりにも安らかな寝顔を見下ろし、考え込んだ。

 と、パッチリと目が開いて、目が合う。そのまま3秒ほど見つめ合ってから、俺は声をかけた。

「おはようございます」

「ギャアアアア!?」

 叫んで飛び起き、跳び退りやがった。

 とりあえず、こいつが無事な所を見ると、空気の組成に問題はないらしい。ヒト型生物は今の所地球人とルナリアンくらいしかいないし、こいつの衣服もそこから外れてはいない。あとはこいつが、地球人かルナリアンかという事だが、生命維持における点ではどちらの陣営かなんて些細な問題だ。

 俺は、ヘルメットのバイザーを開けた。

 取り立てて、何かの匂いなどしなかった。

「やあ」

 片手を軽く上げて、改めて挨拶してみた。

「誰だ、お前!?」

 英語か。金髪、碧眼、長身、スラリとしているのに鍛えられているとわかる体躯。何か腹立つなあ。どこの王子様だ、こいつ。

「お前・・・地球人めっ!」

 慌てて腰のホルスターからナイフを出してこちらに向ける。

 こいつも遭難者だろうに、わかってるのか?思いながら、英語に切り替えた。

「はあい。ないすみーちゅー」

 金髪の王子様の眉毛が、八の字になった。


 王子様改めエド・オイラーは、19歳のルナリアンだった。

「何かあると思って近寄って調べていたら、急にこっちに引き込まれたんだ」

「俺も同じだ。それまでは普通に、岩が輪っか状につながってるだけだったのに」

「そうなんだよな。なんだろうな、あれ」

 俺達は仲良く、休戦協定を結び、一緒にいた。

「で、何してたわけ、エドは?」

「休息だ。その辺を歩き回ったから、体力の維持、回復の為にだな」

「要するに昼寝ね。涎垂らして平和そうな寝顔してたもんなあ」

「ぐうう・・・!」

「で、飲み水、食料に関しては?いつからここにいたの?」

「うむ。ここに来て78時間程になるな。携帯食料を食べていたが、尽きたところだ。水はあの川の水を飲んでも問題はない。

 食料はどの位ある、砌?ん?サバイバルセットを持っているにしては・・・身軽な・・・まさか?

 フン。心構えがなっとらんな」

「クッ・・・!」

 仲良くはないな。

「とにかく、比較的安全に過ごせる場所と、水と食料だな」

「同感だ」

 俺達は、限定でバディとなった。




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