傲慢な男

「近日中に大きなデーモン戦があるとはマジか?」

 

 ブエルが覗き込むモニター一杯にエヴァンの脂肪に満ちた暑苦しい顔が映し出されている。

 話している内容はバアルに関する内容であり、例のニュースを見た結果導き出した結論を伝えたところだ。

 

「本当じゃい、朕は嘘つかん」

「でもたった二十センチだろ? そんだけでどれだけの力になるんだ?」


 モニュメントに嵌め込まれている魔晶石の大きさは二十センチ、たしかに手のひらサイズではあるが、それに秘められた力は絶大である。

 

「お主が使ってるゴールドシリーズじゃが、あれに使われている魔晶石の大きさはいくらじゃと思う?」

「あ? 三十センチとかか?」

「五ミリじゃ」

「マジかよ」

 

 事の重大さを理解したエヴァンは顔色を青ざめながら、背後にいたらしい執事のレイノルドに出立の準備を促した。

 

「でもよ、奴の目的がモニュメントの魔晶石ならさ、こっそり奪ってしまえばいいだろ? ニューヨークを巻き込む必要ないんじゃないか?」

「ところがそうもいかん、奴の最終目標はエレミヤの呪いを解く事じゃ。呪いを解くためには大きな力がいる。そして奴の力の源は付近にいる人々の負の感情じゃ」

「あぁ、だから手っ取り早く街全体を破壊して力を貯めようというわけだ。でもそれがいつかはわかんねぇだろ?」

「うむ、じゃからこればかりは朕の推理になる。恐らく襲撃は明後日」

「その根拠は?」

「その日、エンパイアステートビルの再開式典と半年前の追悼式が行われるんじゃ」

「OK理解した。つまりいつも以上に人が集まるんだな?」

「そうじゃ」

 

 直ぐに戻るとだけ残してエヴァンの通信は終わる。

 本音を言えば式典を中止したいところだがそうもいかないだろう、一応所長が色々な所に掛け合って中止を訴えかけているらしいが、期待しない方がいい。

 出来ることといえば式典の警護と称して軍を多く配備する事ぐらいか。

 

「時間がなさすぎる、デオンも帰ってくるのは明後日じゃと言っていたし」

 

 今いるデーモンハンターとアーチボルト家の私兵隊でなんとかするしかない。エヴァンが今日中に帰ってこられるのが救いかもしれない。

 エヴァンがいれば私兵隊も動かしやすい。

 頭を悩ませているところ、所長のドクが帰ってきた。

 

「お互い頭が痛いなブエル」

「その様子じゃと駄目だったようじゃの」

「あぁ、政治家共の薄汚いメンツが関わってきててな……それはもういい、今は被害を抑える方法を考えなければ」

 

 被害が出るのは確定なのだ。ドクは乱暴に椅子に座ると手にもっていた封筒を机の上に投げ捨てた。

 

「なんじゃそれは?」

「帰り際に考古学部の知り合いが面白い物があるからと渡された物だ、正直今はそれどころではないのだがな」

「ふむ、どれどれ」

 

 ブエルは顔の周りに生えた幾本もの蹄をウニョウニョと動かして封筒から中身を取り出す。

 どうやら何かの道具の研究結果らしい。中世の騎士がつけていたようなガントレットにロングソード、小さな鞄、裾が焼け焦げたローブ、そしてそれらの所有者と思われる男の写真。

 

「この男は!?」

「知り合いか?」

「こいつは、まさか近くに来ておるのか?」

「聞いてるのかブエル、そいつは何なんだ?」

「こいつは朕が前話したあの男じゃ、バアルと戦ったあの」

「まさか」


 ドクも合点がいったらしく、驚きに満ちていた。まさかこのような偶然が重なるとは思っても見なかったのだ。バアルの襲撃が近いこの時に、バアルと交戦経験のある異世界の戦士が現れたのだ。神の粋な計らいなら後で教会にお祈りを捧げにいこう。


「こいつが、マスター・クラウザーじゃ」

 

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