第6話 貧乏くじ男、東奔西走

 なんで俺はこんな平凡な男の中にいるんだろう。くじ引きで決まったのならだいぶ運が悪い。朝起きたら支度して仕事へ。帰ってきたらまったりテレビを観たり本を読んだり。そしてご飯を食べる。悪くはないが俺はこんなにインドアじゃない。俺はこの男が嫌いだ。だけどずっとこの男の中にいる。


 ピーンポーンと間の抜けた音がしてゆっくり立ち上がった男。俺も何の抵抗もなく揺られていたが突然、彼は俺になっていた。扉を開けると可愛らしい清楚なお嬢さんが立っていた。大家のお孫さんだという。



「作りすぎてしまって」


「まじか!やった」


「好きですか?肉じゃが」


「好き!こんな可愛い子がくれたらどんなものでも食べるよ」


「ふふ、また持ってきますね!」



 嬉しそうに帰っていく後ろ姿。俺はさっそくチンして食べた。普段は自炊もするがどうしてもコンビニに頼りがちである。自分の体が自由に動くのが嬉しい。おいしい。時々こうして入れ替わるが男ははっきり覚えておらず、よく変な人扱いをされている。俺はそれがちょっと面白い。それ俺だよオレオレ、と内心思う。



「そうだ旅行の計画でも立てるかな」



 誰が聞いているわけでもないが一人で呟き、俺は東に西に遊びに行くことに決めた。この男は都合の悪いことは全部俺のせいにする。本の中にいる悪い俺のせい。本の中なのは体にいるとは思っていないからだろう。だからたとえ旅行中に元に戻ってもまた俺の悪い癖だなと意外と彼は楽しむはずだ。

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貧乏くじ男、東奔西走 新吉 @bottiti

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