第5話 オムライス

ウィ〜ン、ガキガキ。

ウィ〜ン。


タクロー「ん?何時だ?」


午前6時50分


タクロー「もう朝か〜。こんな早くから修理ですか」

マナミ「起きろー」

タクロー「だからさー」

マナミ「起きてるよ〜、でしょっ?」

タクロー「…」

マナミ「悪いね。早くからうるさくしちゃったね。」

タクロー「起きろー、より静かだし」

マナミ「もう、あまり時間ないからさ。」

タクロー「で、今日の予定は?」

マナミ「タクローの大学。」

マナミ「おばあちゃんも…」

タクロー「おばあちゃんも?」

マナミ「…行きたかったかなー?ってさ。」

マナミ「大学。」

タクロー「そっかー。うちの大学は見るには最高かもな。創立5年で新しいからな。」

マナミ「ジャマしないようにするから。」

タクロー「わかった。」

マナミ「よろしく!」


昨日の雨はどこへ?

そんな事言いたくなるくらい、雲ひとつないもう夏を思わせるような青空。

心地よい朝の日差しを浴びながら、大学までの数分の道のり、今日は1人じゃない。

特別に感じるわけでもなく、なぜか自然な感じがする。

考えてはいないが、タクローはそう肌で感じていた。


タクロー「着いたぞ。」

マナミ「ここが。」

マナミ「ここがタクローの大学かー。」

タクロー「俺、今日午前で終わりだから

それまで色々見てなよ。後から案内するからさ。」

シュン「よっ、タクロー。昨日はサンキューなー。」

シュン「…この人は?」

タクロー「この前話した親戚。」

マナミ「マナミです。タクローがいつもお世話になります。」

シュン「いや〜、これはご丁寧に。シュンです。」

シュン「なぁー、お前の親戚なのになんでこんな美人なんだ?」

タクロー「あのな〜。」

シュン「で、マナミちゃん今日はどうしたの?」

マナミ「タクローの大学見にね。」

シュン「そっかー。うちの大学は見るのには最高かもね…」

タクロー「その話もうした。」

シュン「はいはい。そーですかー。」

シュン「あっ、ヤベー授業はじまるし。」

タクロー「おー、そうだな。」

マナミ「2人ともしっかりねー!」

シュン「はーい。それじゃあ。」

タクロー「じゃあ、12時くらいにまたここでな。」

マナミ「うん。わかったー。」


小走りの2人。

ギリギリではないがセーフ。


シュン「なんであんな美人?」

タクロー「あれが美人か?」

シュン「綺麗な年上のお姉さん!って感じだな。」

タクロー「綺麗かは微妙だし、俺らより1つ年下だし。」

シュン「えーっ、年下?見えないなー。」

シュン「普通にマナミさんって言いそうになったよー。俺。」

タクロー「それはどっちでもいいのでは?」

シュン「いいよなー。あんな美人がいつもいるんだろ?」

シュン「まっ、親戚だったらそんな事も思わないのか。」

タクロー「そんなとこだ。」

シュン「相変わらずマイペースだな。」

タクロー「余計なお世話だ。」


お腹も減ってきた頃、今日はこれで終わりのタクロー。

待ち合わせの場所へ。


タクロー「おっ、待ったか?」

シュン「ウィ〜ッス!」

タクロー「なんでお前もいるんだ?」

シュン「かたいこと言わない。」

マナミ「ちょうど今来たとこ。」

マナミ「広いねー。大学。」

タクロー「どっか案内するか?」

マナミ「大丈夫。もう色々見たし。」

マナミ「シュンくんとお出掛け?」

タクロー「いや、こいつは気にしなくていいんだ。」

シュン「アニキ〜、腹減りません?」

マナミ「私もお腹すいたー!」

タクロー「よしっ。なんか食いに行くか?」

シュン「よし行こー。」

マナミ「行こー!」

タクロー「割り勘な。おごらんぞ。」

マナミ「けちーっ!」

シュン「けちけちー!」

タクロー「お前らな〜」

タクロー「駅前の定食屋な。」

シュン「おっけー。」

マナミ「わかんないけど、おっけー!」

タクロー「割り勘な!割り勘。」


時計塔のすぐ横にあるタクローとシュンはよく行く定食屋である。

古い雑居ビルの1階にあるこの定食屋は夫婦でやってる小さな店。

サバの味噌煮定食が1番人気。


ガラガラ


店主「いらっしゃいっ。」

妻「いらっしゃいませー」

店主「おっ、シュンちゃん、ダンナも。」

妻「あら?今日は美人さんも一緒かい?」

店主「どっちの?まさかなー。」

妻「ないな。どっちも。」

タクロー「失礼な夫婦だなー。」

シュン「失礼な店だ。」

マナミ「ふふふ」

シュン「俺いつもの」

タクロー「マナミなににする?」

マナミ「う〜ん。オススメは?」

妻「女性に大人気のオムライスセットは?」

マナミ「じゃあそれで!」

店主「変わり者のダンナもいつものな。」

タクロー「はい。」

タクロー「って、誰が変わり者だよ。」

妻「あんたは充分変わり者だよ。」

店主「マナミちゃん?でいいんだっけ?」

マナミ「はい。」

店主「このタクローってやつはさぁ、うちの1番人気も食わねー、定食すら1度も食ったことねー、決まっていつもジャンバラヤ。」

妻「オススメも全部断られたし。」

マナミ「それはそれは、いつもタクローがすみません。」

妻「えっ?まさかマナミちゃん、タクローの彼女なのかい?」

マナミ「親戚なんです。今泊めてもらってるんです。」

店主「あー、ビックリしたー。」

タクロー「いいよ。俺の話とかは。」

タクロー「それよりおやっさん、腹減ったから早く作ってよ。」

店主「あっ、わりーわりー。」

シュン「マナミちゃん普段友達とどんな所でご飯食べるの?」

マナミ「友達と行くのはどこってよりは、うーん…フードコート?みたいなとこって言ったらいいのかなぁ?」

タクロー「ピザ屋ないのに?」

シュン「えっ?ピザ屋ないの?」

マナミ「たまたまよ。たまたま。」

店主「サバあがりー。」

妻「はいっ、シュンちゃん。」

シュン「いっただっきまーす。」

店主「オムライスあがりー。」

妻「はい。マナミちゃん。」

マナミ「ありがとうございます。」

マナミ「いただきまーす!」

シュン「うめー!いつもながらに。」

マナミ「おいしーっ!!」

店主「うれしいねー。」

妻「ホントだねー。」

マナミ「わたしオムライスってはじめて食べた〜!」

妻「あらっ、珍しいねー。」

店主「じゃあ人生初オムライスは俺が作ったってことになるなー。はっはっは〜。」

タクロー「なにが、はっはっは〜だ。食ったことないって事に驚け。」

シュン「珍しいねー。オムライス食べた事ないななんてさ。」

マナミ「そっかー、珍しいかなぁ。」

タクロー「俺のジャンバラヤ…」

妻「オムライスセットはデザートとコーヒーか紅茶もあるわよ。」

シュン「俺もそっちにすればよかった。」

妻「なに言ってんだい。いつもサバしか食べないじゃない。」

店主「そーだ。サバ男。」

シュン「だってサバうまいし。」

タクロー「ジャンバラヤ…」

店主「わかってるよ、ダンナ。」

店主「お前食べるの早いからバランス考えて作ってんだよ。」

タクロー「俺腹減ってんだけど。」

店主「ジャンバラヤあがりー。」

妻「はいっ。ジャンバラヤ。」

タクロー「いっただっきまーす。」

店主「本当。こいつはうまいの一言も言わねー掃除機みたいなやつなんだ。」

妻「けどねマナミちゃん、この子はこんなんでも優しいとこあるの。」

マナミ「優しいとこ?」

妻「去年だったかしら?あるおじいちゃんが定食食べてお会計の時にさ、実はお金ありませんって。」

妻「私らも商売だし警察呼ぼうかって、その時にね、タクローがたまたまいてさ、俺が払うって。それだけじゃなく、生活の事聞いて

生きていくのもやっとってくらいでさ。そのおじいちゃん。そしたらタクローが持ってるお金全部渡して、死ぬくらいなら返せよ。返さなくていいからちゃんと生きろ。って。」

マナミ「へー。」

店主「馬鹿の王道だな。」

シュン「そう。馬鹿だこいつは。」

タクロー「いーよ。その話は。」

妻「不器用な性格だけど優しいんだよ?」

マナミ「そっか。わかる気する。」

タクロー「誰が不器用だ。」

妻「はい。デザート。」

マナミ「わー、おいしそー。」

マナミ「おいしーっ!」

妻「うれしいねー。」

シュン「タクロー食うの早いな。」

店主「飲んでるんだよ。こいつは。」

妻「すってるんだよ。掃除機だから。」

タクロー「あめとむちか…」

マナミ「ごちそうさまでしたー」

シュン「ごちそうさまっ。」

タクロー「ごちそうさま。」

店主「マナミちゃんまた来なよ。」

妻「こっち来た時はよりなよ。また待ってるからね。」

マナミ「はい。ありがとうございます。」

妻「ありがとうございましたー」

店主「まいどー」

シュン「じゃあまたね、マナミちゃん。」

マナミ「うん。それじゃあ。」


ガチッ


タクロー「あー、食ったー。」

マナミ「美味しかったー。」

タクロー「今日はやる事終わったの?」

マナミ「うん。残りあと2つ。」

タクロー「もっとなかったっけ?」

マナミ「大学で、が多かったから。」

タクロー「そっかー。」

マナミ「あともう少し。」

タクロー「おう。」

マナミ「今日はこれから修理だー。」

タクロー「がんばれー。」

マナミ「おーっ。」

マナミ「ホント、オムライス美味しかったなぁー」

タクロー「マジで食った事ないの?」

マナミ「マジで。」

タクロー「マジか。」

マナミ「変かなー!」

タクロー「珍しい?かな?」

マナミ「わたしね…」

タクロー「ん?」

マナミ「いや?なんでもない。」

タクロー「なんだ?へんなの。」

マナミ「オムライス大好き!」

タクロー「まだ言ってるし。」

マナミ「いーの。オムライス!」

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