第4話 雨でも

カーテンの隙間から眩しい朝の光が入り込んでタクローの枕元を照らす。

まだ寝ていたいような心地よい朝日。


タクロー「ふぁ〜」


っと、その時


マナミ「起きろー!」

タクロー「起きてるよ〜」

タクロー「ってかさー、なんか他に起こし方ないわけ?」

マナミ「ないっ!」

マナミ「だって、ちゃんと起きれてるじゃない。私のおかげでー」

タクロー「いやいや、いつも起こされる前に起きてるし。」

マナミ「そんな事どっちでもいいんだけどさ、小高い丘?山?みたいなとこある?」

タクロー「あ〜、緑山のことか?」

マナミ「わかんないけど、天辺に大きな木があるとこ。杉の木?かな〜?」

タクロー「あー、あるある。緑山だな。」

マナミ「そこ行きたい。」

タクロー「俺、今日講義長いから明日ならいいけど。」

マナミ「地図書いてよ。タクロー大学行ってる間に行くからさ。」

タクロー「そんなんでいいのか?」

マナミ「私、方向感覚バッチリだから多分大丈夫よ。」

タクロー「わかった。」


タクローはメモ帳を破いて地図を書いた。

方向感覚バッチリだから、と言ってるマナミ。だが、問題が。

タクローの書いた地図が下手すぎたのである。


マナミ「なによー、これ〜。」

タクロー「ググれよ。スマホあるんだろう?」

マナミ「あっ、そうか。」


最初からそうするべきだったのだ。


マナミ「緑山ねー。オッケー!」

タクロー「それありゃ、今後俺いらねーよな。」

マナミ「いやいや、必要な時は一緒に来てもらうし。」

タクロー「ベンチ動かしたり?」

マナミ「そーそー」

マナミ「ふふふっ」

タクロー「なにがおかしー」

マナミ「だってさー、あの時のタクローの顔って〜」

タクロー「顔がなんだよー」

マナミ「今にもオロオロって言いそうな顔してるんだもん。」

タクロー「そんな顔してたかー?」

マナミ「してた。」

タクロー「よけーブサイクな。」

マナミ「そんなに変わらないよ。」

タクロー「はいはい。よけーじゃなく、いつもでした〜」

マナミ「まっ、スネるな、スネるな!とっつぁん坊や。」

タクロー「誰が坊やだ。誰がっ!」

マナミ「とりあえず、行ってみるわ。」

タクロー「話を切る天才だな。」

マナミ「まぁなー!」

タクロー「気つけて行けよ。」

マナミ「りょーかいっ!」


タクローが大学についた頃、あんなにいい天気が嘘のようにどしゃ降りに。

徒歩数分で着くのに傘をちゃんと持ってきていたので、帰りの心配はない。

大学に着いてふと思った。

タクローの家には傘は1つ。

だが、マナミは雨だからきっと行くのやめたに違いない。

自己解決。

それ以上気にする事なく一日過ごす。

雨は止む気配すらなく、雷まで鳴っていた。


シュン「タクロー、傘忘れたから一緒に帰ろうぜっ。」

タクロー「は〜?お前ん家逆方向だし、駅の裏だろ。なーにが一緒にだよ。」

シュン「まー、かたいこと言わない、言わない。」

タクロー「ったく〜、しょーがないなー。」

シュン「よろしくっ!」


アパートと逆方向に向かって歩き出す。

雨は強く、地面を叩くように降り続いてる。

男同士の相合傘。

考えればわかる事。


シュン「小さいな。傘。ってか、お前が幅取りすぎなんだよ。」

タクロー「よく言うよな。入れてもらってるくせに。」

シュン「半分くらいしか入ってないし。」

タクロー「文句言うなら帰るぞ。」

シュン「あっ、すまん。つい本音がっ。」

タクロー「余計に悪い。」

シュン「大人しく歩きまーす。」

タクロー「それでよし。」


2人とも半分くらい濡れながらようやくシュンの家に。


シュン「サンキュー!」

シュン「寄ってくか?」

タクロー「いや。またにするわ。」

シュン「わかった。ホントにありがとな。」

タクロー「おー。」

タクロー「また明日な。」

シュン「おう。また明日っ」


大学から徒歩数分が、徒歩20分になった事でもう濡れないように急いで帰る必要がなくなった。

傘を独り占めできた事に優越感を感じる。

自分の傘のはずなのに。

少し歩いたとこのタバコ屋の前。

見たことある小柄な娘。

マナミだ。


タクロー「おい、どーしたこんなとこで。」

マナミ「えっ?なんで?」

タクロー「友達が傘に入れろって。それで遠回りしてる。」

タクロー「って、マナミこそなにしてるんだ。こんなとこで。」

マナミ「スマホの充電なくなって、やっとここまできたけどタクローの家わかんなくなってさ。」

マナミ「傘持ってないし、とりあえず雨宿りって感じ。」

タクロー「なーにが、って感じだ。ずぶ濡れのくせに。」

マナミ「雨も滴る…」

タクロー「行くぞっ。風邪ひいたら大変だからな。」

マナミ「優しいな。意外に。」

タクロー「明後日、模試だからさ。」

マナミ「自分の心配じゃん!」

タクロー「マナミも風邪ひくぞ。」

マナミ「あたしのほーが濡れてるのに、マナミもって、も、かよ!」

タクロー「まー、細かい事言わない。」

タクロー「帰るぞ!」

マナミ「うん。」


マナミ「なんかこの傘…」

タクロー「傘が小さいんじゃなく、俺が幅とってんの。」

マナミ「まだなにも言ってないし。」

タクロー「もうその話はさっき友達に言われたの。」

マナミ「ありがとう」

タクロー「なにが?」

マナミ「無事に帰れるし、傘があるし。」

タクロー「ついでだ。ついで。」

タクロー「得意の方向感覚どうした?」

マナミ「雨で鈍った。」

タクロー「はいはい。」

マナミ「…なにか?」

タクロー「いいえ、何も。」

タクロー「ほら、濡れるから急ぐぞ。」

マナミ「もうずぶ濡れだよ。」

タクロー「俺はまだ半分しか濡れてない。」

マナミ「また自分かよ。」

タクロー「まっ、細かい事言わない。急ぐぞ!」

マナミ「わかったー、って遅いよータクロー。」


アパートに着く頃には小雨になっていた。

もう傘もいらないくらいに。


ガチャッ


タクロー「あー、半分濡れたー」

マナミ「早く着替え〜。」

タクロー「おー、そうだな。」

タクロー「覗くなよ。」

マナミ「お前がなっ!」


タクローはジャージに。

少ししてマナミも着替えて出てきた。


タクロー「行ったの?この雨の中?」

マナミ「ちゃんと着いたよ。」

タクロー「ってか傘もないのによく行ったな。」

マナミ「思いたったら吉日ってか。」

タクロー「明日にすればよかったのに。」

マナミ「私には時間がないの。」

タクロー「そっか。休暇中だっけ」

マナミ「そう。」

マナミ「その間にやる事いっぱいあるし。」

タクロー「今日は無事にやる事はできたの?」

マナミ「もちろん」

タクロー「なにしてたの?まさか木動かしたとか?」

マナミ「んなわけ。」

マナミ「今度教えるよ。」

タクロー「まっ、無事にできたならいいんじゃない。」

マナミ「明日は〜、えーっと…」

タクロー「はいはい明日はなんでしょう?」





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