Dance in Apnea - 4

 二人の談笑に耳を傾けながらランチを摂り終えた後。

 注ぎ足されたほうじ茶で喉を潤し、至福の時を味わっている。


「草摩さん、明日もまた会えますか?」

 ツカサさんは懇願的な表情を浮かべながら明日も面会を希望する。

 物臭な僕は、逡巡とした後、僕の家に来てくれるならいいですよ。

 そう答えた。


 彼女は思案気に右手拳を顎に当てている。

「……マジ兄、彼女の家にお邪魔してもいいと思う?」

「迷惑にならなければいいだろ」

「じゃあ、無理か」

「だな」


 なら、二人に次ぎ会うのは、団長さんが帰って来てからになるのかな。僕はツカサさんと連絡先を交換して、団長さんが戻ってきたら電話するようお願いし、喫茶店から辞去した。


 のように、僕のシミュレーションは完璧だった。

 しかし実際は。

「草摩さん、また明日も来てくれると信じてますね。じゃなかったら貴方は無銭飲食で捕まるかも」

 信じられないね。


 僕はお会計も済ませてないと言うのに、彼女達が営む店から脅されている。

 現代人は酷く孤独で、出逢いを求めるためなら脅迫さえも辞さないのだろうか。

 

 僕はそこに現代社会が抱える底なし沼のような負の連鎖を感じた。

「とにかく座って、草摩さんは学生?」

 僕はエンバーマーだ。

「エンバーマー? 確か亡くなった人の身体を洗浄とかするんだっけ?」

「物珍しい職業だな、草摩さんは今まで何人くらいの仏さんを相手して来たんだ?」

 

 お兄さんの方から職業経験を尋ねられ、僕は端的に十人ぐらいかなと答えた。

「へぇ、結構相手してるんだねぇ。人は見掛けによらないな」

 僕は次いで二人の職業を尋ねようとしたけど、途端に面倒になった。


 早く解放されないかな。


「もしかして、草摩さんが連れてる猫ちゃんも?」

 しかし愛猫の話しを持ちだされると、僕は弱い。

 そこで僕はかねてから疑問だったことを二人に訊いてみた。


 先ず、二人はペットを飼った経験はなかったかな。

「あるよ、昔犬を飼ってた」

 じゃあ、飼い犬が死んだ時涙は出た?

「どうだったかな、結構昔のことだから忘れちゃったかも」


「ツカサのことだから絶対、泣かなかったな」

「薄情なマジ兄には言われたくない」

 ツカサさんは飼い犬が死んだ時、涙したのか覚えてないんだってさ。

 店主のお兄さんはああ言っていたけど、彼女は絶対涙したと思う。


 きっと彼女はその昔泣き虫で、涙を流しすぎて枯らしてしまい。

 大人になった今は満足に泣くことも叶わなくなったんじゃないかな。

 僕はツカサさんに関心を持つようになった。

「……私ね、もう直死んじゃうんだ」


 ならなおさらだよ。

 彼女が亡くなる前に、僕は彼女の気持ちを推し量りたかった。

 そして愛猫を亡くした僕が涙できなかった理由を、知りたかった。

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