第10話 『ファイナル・ジ・アース』における、ゆるやかな死と再生
ジャンルはSF。
遠い未来、地球から10光年以上離れた惑星に移住した人類は、そこに住む固有種である敵性生命体オミクロン・スタイルに遭遇する……。
『ファイナル・ジ・アース』は、というようなストーリーです。
簡単にプロットを解説すると、主人公は、ミッションという形で依頼を受けて、敵性生命体が跋扈するジャングルの奥へ、女の子を護衛して、「お墓参り」にいくのです。
が、前回のミッションで拾得した大量の「現金」を狙って殺し屋たちが彼を襲います。しかし、彼のパートナーである女魔術師の救援で敵を退け、一行はさらにジャングルの奥へ。
ジャングル最深部には、強力なドラゴンが待ち受けています。彼らはそのドラゴンを倒してミッションを成功させることができるのか……?
というあたりに差し掛かるころには、もう筆は進まなくなっていました。とにかく書けないし、進まない。最初のころはノリノリで調子よく書けていた小説が、急激に失速し、一日に二行か三行書ければいいほう。ひどいときは、三日で一行でした。
なんとかせねば、と作品にテコ入れし、ドラゴンだけではなく巨獣の白い虎を出し、『魔獣トーマ』と名付けて話を盛り上げようとするのですが、やはり書けない。どうにもこうにも、書けないのです。
ぼくは考えました。なにがいけなかったのだろう?と。
プロットに問題があったと気づくのに、ずいぶん時間がかかりました。
ぼくは途中で、『やってはいけないこと!』をしてしまっていたのです。
それが書けなくなった原因だったのです。
上記のプロットのなかに、やってはいけないことが書かれています。それはなんでしょうか?
それは、『女魔術師の救援で敵を退け……』のくだりです。ぼくはあそこで、問題をひとつ、『解決』してしまった。解決してはいけなかったのです。
──プロットにおいて、問題を解決していいのは、あらたな問題がおきるときだけ
ぼくはそのことを昔から知っていました。が、ついつい忘れていた、というか、取るに足らない小説作成上のコツであろうと思っていました。現実には違いました。
プロットの問題、とくに途中で解決してはいけない問題を解決してしまうような問題は、ときとして小説自体を死に追いやることがあります。
ぼくは、ほとんど書きあがって、あとはクライマックスを残すのみとなった長編の約三分の一を削除しました。そして、中盤のクライマックスで敵を撃退せず、主人公たちに逃走させました。問題を棚上げにして、最後までひっぱるプロットに書き換えたのです。
『ファイナル・ジ・アース』はノープロットのほぼアドリブで書いた長編です。
中盤からの展開は当然書きながら考えています。中盤のプロットを直してからは、あの作品は見違えるように筆が走り始めました。つぎづきとアイディアも生まれてきます。起きる事件も、出てくるアイテムも、書きながら考え、調子にのって遊びまくりました。『ファイナル・ジ・アース』という題名の意味も、クライマックスになって初めて知りました。
自動筆記の極みです。「へー、この題名、そういう意味だったんだ」と。
小説は、たったあれだけで死にます。
が、そこをちょっと直すだけで、見違えるように息を吹き返します。
だから、ぼくはあなたにお尋ねいたします。
あなたの、途中で書けなくなってしまった小説。どこかであなたが間違いを犯しているのではないでしょうか? 途中までは調子よく書けていて、急にそれが失速したのなら、キャラクターに原因があるとは思えません。プロットか、あたらしく付け加えた設定か。
どこかにその小説を殺してしまう間違いがあるのではないでしょうか?
以上が、ぼくが経験した二度目の、『小説を書けなくなる体験』です。
もしかしたら三度目の体験をこれからすることになるかしれません。そしてそれは、今日いきなり起きるかも知れない。
もしくは、それはぼくではなく、これを読んでいるあなたかもしれない。
そしてそのときに、ここまで書いてきたぼくの体験が役に立つのか? 立たないのか?
それは分かりません。
でももし、少しでも、書けない苦しみを和らげることができるのなら。そう思ってこの体験を公開させていただきました。
ここで、本作はいったん終了とさせていただきます。できれば、続きがないことを、ぼくは祈っていますが。
本作がなにかのお役に立てれば。少しでも、苦しんでいるあなたの、お役に立てれば、良いのですが。
小説が書けない! 雲江斬太 @zannta
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