第7話 救いの女神は「こんにちはー!」と飛び出してきた


 ぼくは無理にでも書き続けていました。

 そして、なんとか、リハビリを兼ねて長編の執筆に挑みます。巨大ロボット物、題名は「ベルゼバブ」。今思うと、いろいろとグダグダな内容でした。

 ところがです。


 主人公が初めて巨大ロボットに乗り込んだとき、操縦席で「電源ヲ入レテクダサイ」みたいな音声ガイドを流すのは、少し味気ないなと逡巡したつぎの瞬間、操縦パネルの画面のひとつに女の子が現れ、「こんにちはー!」と元気よく挨拶してきました。


 ぼくはびっくりしました。

「だれ? きみ?」

 まさにそんな感じです。

「わたくしは、ヘルプウィザードのビュートです」

 彼女はそう名乗りました。ぼくが名前をつけたわけではない、と思います。ぼくはこのとき、こんなキャラクターはもちろん、ヘルプウィザードなんてシステムの設定をまったく考えていませんでしたから。


 キャラクターが勝手に動くという現象は「AG」のときに嫌というほど体験しています。が、勝手に出現してきたキャラクターは、あとにも先にもこのビュートだけです。

 ぼくはこの長編「ベルゼバブ」を、勝手に飛び出て来たビュートの強烈なサポートもあってなんとか書き上げます。いや、ビュートがいなかったら、ぼくはあの長編を最後まで書けたかちょっと怪しいです。

 ともあれ、書きあげました。が、さすがはリハビリ第一作。われながら、ヘロヘロな出来でした。


 この長編「ベルゼバブ」は、その後、何度も書きなおし、何度も改稿されて、現在は『カーニヴァル・エンジン戦記1 悪魔のカーニヴァル・エンジン』という題名でカクヨムで公開されています。

 ちなみに、初稿にて、初登場時のビュートはいません。あれは、途中からの改稿による演出です。



 なんとか、長編を一本書き終えたぼくは、そのあと、徐々に小説を書く力を取り戻していきます。


 「AG」を書いたのが、1988年ごろ。「ベルゼバブ」が2000年前後。実に12年の時間が流れていました。


 そこからは、いくつもの長編を書き、『カーニヴァル・エンジン戦記』についても続編と続々編を完成させます。そのころにはすっかり、書く力を取り戻していました。



 でもなぜ、ぼくはあのとき書く力を失ったのでしょう? そしてどうして、それを取り戻せたのでしょう?


 それはたぶん、自分の中にある、『大きな齟齬』、ではないかと思うのです。


 それについては、つぎの回で語ろうかと思います。

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