第48話 悠真の知り合い?

 暇を持て余している悠真は、たまには自分の店にお客として来店してみようと、パティへと足を運んでいる。


 「いらっしゃいませー。あ、ご主人様」

 「今日は1人のお客として来たから、こっち座っていい? たまにはお客目線で見て改善点を探りたいからさ」

 「かしこまりました。それではメニューをお持ちしますわ」


 エレンが持ってきたメニューに目を通し、プレーンのプリンを注文したところで、カトレアが公爵家令嬢たる優雅な立ち居振る舞いで来店し、女性客の憧れを一身に受けていた。


 「あっ、ユーマさん!」

 「ご無沙汰しております。こちらの席をどうぞ」


 悠真を発見したカトレアは悠真の下へと向かい、悠真はカトレアを上座へと促す。


 「有難う御座います。ユーマさんがパティにいらっしゃってるなら、もっと早くくれば良かったわ」

 「たまたまですよ。暇を持て余していたので、お客として来店しているだけです」

 「あ、エレンさん、いつものプレーンのプリンをお願いしますね」

 「かしこまりました」


 注文を取りに来たエレンに、メニューを見ることなく注文をしたカトレアは、最近はプレーンのプリンを好んで食べているようだ。


 「最近はプレーンを召し上がっているんですか? ベリーソースやイチゴソースが好みだったと記憶しているんですが……」

 「ええ、最近ですけどプレーンの良さに気付きましたの。先日ユーマさんがおっしゃってたように、プレーンの方がプリンの味を純粋に楽しめることに気が付きましたわ」


 屈託のない笑顔で答えたカトレアだが、当初は悠真の好みに合わせようとソース系を我慢して注文していた。

 だが、ふとソース系とは違う甘さに魅かれ、それ以来プレーンを注文している。


 「ところで、あのフレンチトーストはやはりまだ発売されないのですか?」

 「それなんですけれど、売上げが落ち込んでからと思っていたのですが、実は2号店を開店する予定でして、そのオープン記念に合わせて販売しようかと考えています」

 「まぁ、2号店ですか。ぜひそちらにもお伺いしますわ」


 2号店の位置や、開店時期などを話していると、エレンがトレーに乗せてプレーンのプリンを2つ運んできた。


 「プレーンのプリンで御座います」

 「有難う」

 「やっぱり美味しいですわ」

 「そう言って頂けると幸いです」

 「そんなに固くならずに、もっと友好的な方が良いですのに……」


 プリンを食べて満開の笑顔だった表情が曇り、視線も下の方へと落ちてしまったカトレアを見た悠真は、とっさにフォローに入った。


 「わ、わかりました。今後はもっと友好的な関係を築いていきましょう」

 「では、その話し方をまずは変えませんか?」

 「えっと、例えばどんな風に変えましょうか」

 「友達ですわ。友達とお話している様に、私ともお話して下さい。あと私のことはカトレアと呼んで下さい」

 「公爵家のご令嬢にそれは難しいかと……」


 ほんの少しずつではあるが明るくなっていたカトレアの表情が、今にも泣きそうなくらいに曇ってしまった。


 「わ、わかりました。ではせめてカトレアさんでお願いします」

 「それでいいですわ。でもお友達とお話している様にして下さいね」

 「わかりまし……わかった。気を付けるよ」


 カトレアの表情が元の明るい表情に戻り一安心した悠真だが、タイミング悪くパティでトラブルが発生する。


 「だーかーらー、俺はここのオーナーと知り合いなんだって。この前オーナーが、俺からは金は取れないって言ってたから。だから伝票は片付けといて」


 店内に響く大きな声で、カップルで来店している男性の方がミモザに怒鳴りつけ、一緒に来店している女性からは、尊敬の眼差しを受けていた。


 「すごーい。こんな有名店のオーナーと知り合いだなんて。格好いいー」

 「だろ。昔だけどよ、世話してやったことがあってさ。そのときのことを恩に感じてるのか、俺からはお金は取れないですって言ってたんだよ。そんな見返りが欲しくて世話してやったんじゃないのにな」

 「世話して上げてたんだ。じゃぁ世話して上げたタッ君はここのオーナーより、もっと凄いんだね。惚れ直しちゃう」


 こんなことを大声で喋り、ミモザに怒鳴っているから店内の雰囲気は最悪だ。

 見かねたカトレアが注意しようと従者に声をかけるが、悠真がそれを止め、そのカップルの下へと向かった。


 「どうかしましたか?」

 「あ? お前には関係ないだろ。部外者は引っ込んでろ」


 男は悠真を一瞥するだけで目も合わせず、手を振り追いやろうとする。


 「そんなに大声で怒鳴られると、他のお客さんの迷惑になりますので、大声でお話されるのはご遠慮下さい」

 「はぁ? そんなことこのメイドに言えよ。俺はこの店のオーナーのユータと知り合いだって言ってんのに、それを信じないこいつが悪いんだろうが」

 「タッ君凄いね。今度私もタダで食べられるようにお願いして欲しいな」

 「おう、任せとけ。あいつは俺の言うことには逆らえないからな」

 「ここで食べ放題とか夢のようだね。タッ君素敵」

 「なぁ、まだ俺の事が信じられねぇの? だったらオーナー呼んで来いよ。お前が謝ることになるぜ。まぁあいつは今、スコルに行ってるけどな。俺にスコルってどんな街か相談しに来たんだぜ」


 ドヤ顔でミモザに話をしている男と、その男を見つめる女。そして困った顔をしたミモザと、呆れ果てた顔をしている悠真。

 呆れ果てた顔をしながら悠真は男に話かけた。


 「でも私は貴方を存じ上げませんが……」

 「あぁ? 俺もお前が誰かなんて知らねぇよ。さっさと席に戻って食ってろ」

 「そう言われましても、大声で怒鳴られると、他のお客さんの迷惑になりますので、大声でお話されるのはご遠慮下さい」

 「お前に言われる筋合いはねぇよ。俺にそんな口利いて、お前は何様だ?」

 「私はここのオーナーですが……。あと、私は貴方にお世話になった覚えが御座いませんし、私の名前はユータではなく悠真ユーマですので、お間違えの無いようお願いします」

 「は?」

 「これ以上騒がれるなら、お代は結構ですのでお帰り頂くことになりますが、いかがいたしましょうか?」

 「す、すみません……。頂いてから帰ります」

 「ご理解頂き有難う御座います」


 悠真は一礼した後、ミモザを軽く労い、カトレアの下へと戻り、自分のプリンを食べて笑顔を取り戻していた。

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