第47話 暇は人をダメにする?

 王都に着いた悠真は、輸送隊の御者に依頼完了の印を貰った後、魔物の活性化の依頼の件や、魔晶石のこともあるため冒険者ギルドでギルマスと話をしている。


 「悪魔がスコルを強襲するために、魔物を使って下調べしていたというのが、活性化していた要因でした。現地ではレッサーデーモンと討伐して、実際に使ってた武器が残ったので、それを現地のギルマスに渡してあります」

 「悪魔が発生していたのか……。それにしてもスコル強襲か。助かった。有難う」

 「現地でも言いましたが、結果的に強襲を防いだだけです。あ、ところでスコルからの帰り道で、異常な頻度で魔物と遭遇しました。原因は多分これだと思います」


 悠真は白い魔晶石を取り出しギルマスへ渡すと、驚愕した表情で話しだした。


 「お、お前、これどこで手に入れた!」

 「輸送隊の馬車に取り付けられてました。結果的にその取り付けられた馬車は壊されてしまいましたが、壊されたお蔭でそれを発見できましたね」

 「これが何か知っているのか?」

 「少しだけですが知ってますね。魔物の発生を促すとか」

 「ああ、これは白いから大丈夫だが、本来は黒いんだ。黒ければ黒いほど、大きければ大きいほど、周りへの影響が大きく、強い魔物の発生だったり、発生する魔物の量が多かったりする。一般的には知られていないアイテムなんだが、良く知っているな。というか、こんな物が馬車に仕掛けられてるとか目的がわからんな」


 魔晶石をテーブルにそっと置いたギルマスは腕を組み、目を閉じて仕掛けられた意図を考え出す。


 「そういえば、ネグラクタという冒険者が護衛で一緒になっていたんですが、彼はなぜ護衛になったんですか? 御者の方にも無愛想でしたし、何より護衛の途中で逃げだしましたよ」

 「なにっ。ベラ、ちょっと調べてきてくれ」

 「かしこまりました」


 ギルマスの後ろに控えていたベラは、一礼すると、ネグラクタについて調べるために退室していった。


 「あと、その石が原因だとは思いますが、オーガのユニークが護衛中に出ましたね」

 「まさか討伐したのか?」

 「ええ、なんとか討伐できました」


 オーガのユニークの話や、道中の異常な魔物との遭遇率などをギルマスに報告していると、ベラが戻ってきた。

 ギルマスにくもった表情で何やら耳打ちしていると、ギルマスが大きなため息をついた。


 「ユーマ、すまん。ネグラクタについてだが、どの街にも帰還していないらしい。それと、ネグラクタを護衛に斡旋したギルド職員も現在行方不明らしい。ユーマの話と、ギルドで調べた結果の状況証拠ではあるが、ネグラクタとそのギルド職員がその石を仕掛けた犯人だろう。迷惑をかけた。すまない」

 「いえ、結果的に無事だったから良いんですが、これを教訓に次は同じことが無いようにして下さい。ギルド職員の裏切りとか、誰を信用して良いのか解らなくなります」

 「ああ、すまなかった」




 王都に帰ってきて数日、悠真は特にすることもなく家で暇を持て余している。


 「兄貴、こんなのんびりした、自堕落な生活って最高っすね」

 「暇だ……」

 「いいじゃないっすか。兄貴は普段頑張り過ぎっす」

 「暇過ぎる……」


 現状のままではいけないと考えた悠真は、仕事がないなら自分で作ろうと、パティの2号店でも出店しようかと考えた。

 しかし、これ以上店舗を増やすのであれば、メイドが増えることになり、この家では手狭になる。少し大きな家、というか屋敷を購入しても良いかもしれない。

 そう考えた悠真は、まずはこの家を贈呈してくれた冒険者ギルドに伺いを立てた方が良いだろうと考え、冒険者ギルドへと向かうことにした。


 「兄貴、どっか行くんですか?」

 「ちょっと冒険者ギルドに行ってくる」

 「了解っす。自分はのんびりしてるっす」

 「グリが暇そうにしてたから外で相手して上げてくれ。ダラダラしてるより良いだろ」

 「そんな殺生なこと言わんで下さい兄貴……」




 冒険者ギルドでギルマスと対面している悠真は、家のことについてソファーに座りながら相談し始めた。


 「パティの2号店を出そうと思うんですが、そうなるとメイドが増えて、今の家では手狭になるので、返還が可能かお聞きしたいんですけど、どうでしょう?」

 「ユーマ、お前いいやつだな。今までそんなこと聞きに来たやついないぞ。家ではないが、貰ったら俺の物とか言ってほとんどのやつが勝手に売り飛ばしてるぞ」

 「なんか貰った物を勝手に売るのって気が引けたので……」


 悠真は照れたのか、恥ずかしいのか、頭をかきだした。


 「まぁ、一度ユーマに贈呈した家だ。勝手に売ってくれて構わないし、中の家財も好きにしてくれてかまわん」

 「有難う御座います。ではお礼に後日、先日の王城での懇親会で発表した新作をお持ちしますね。貴族の方々だけでなく、王族の方々にもかなりの好評でしたよ」

 「なにっ! そんな隠し玉があるのか! 早く持ってきてくれ!」


 ギルマスは驚いた表情になり、早く食べてみたいのかソワソワとしている。


 「ええ、早めにお持ちしますね」

 「今日でもいいんだぞ」


 早めじゃない、今日中に食べたいんだと願望を込めて、テーブルに両手を付き、身を乗り出した。


 「早めにお持ちしますね」

 「なんなら今からパティへ行こうか?」


 もう待ちきれないといった感じでギルマスはソファーから立ち上がり、ソワソワと落ち着きがなくなっている。


 「持ってくるのやめようかな……」

 「俺も仕事があるし、ユーマも忙しいだろうから、時間があるときでいいぞ」


 ボソッと悠真が呟くと、急速に冷静さを取り戻したギルマスは、真剣な顔に戻り、再びソファーへと腰を下ろした。


 「ええ、早めにお持ちしますね」




 冒険者ギルドの後、大きな屋敷と、2号店の候補地を探すために商業ギルドの受付に悠真は訪れている。


 「パティの2号店を出店しようと思うんですが、1号店とそれなりに離れていて、人通りが多く、若い人が多数いるような地区に出店したいと考えていますが、この条件に合う候補地で居抜き物件ってありますか?」


 商業ギルドでの対応は、以前に対応してくれたカリアが担当してくれている。


 「その条件で現時点で空き店舗となりますと、かなり厳しいと思われます。たとえば、居抜き物件ではなく、民家ではいかがでしょうか。改築が必要になるかと思いますが位置もこの辺りで、他の条件はクリアできるかと思います。」


 地図の一角を指さしながらカリアが笑顔で答える。


 「ではその物件をいくつか見せて欲しいのと、1号店と2号店の中間ぐらいの距離で、少し大きめの屋敷ってありませんか? 2号店を出店するとメイドが増え、今の家では手狭になってしまうので」


 3号店や、別の店を出店することも踏まえて少し大きめの屋敷を頼む悠真は、1号店の位置と、先ほどカリアが指差した一角を確認しながら質問すると、カリアは分厚い資料を取り出し、ペラペラと何かを探すように捲っていく。


 「えーっと……。これですね。この屋敷が現在は空家になっております。ただ、築年数がちょっと経っておりますので、2号店と合わせて改築されるのがよろしいかと思われます。」

 「位置的に良さそうですし、庭もあって広さも良いですね……」


 改築ありきで進めてくるカリアだが、改築抜きで悠真の条件に合う物件はなかなか無いのだろう。


 「では、その屋敷の周辺のチェックと、先ほどの2号店の物件数ヶ所の内見をお願いできますか?」

 「かしこまりました。準備しますので少々お待ち下さい」


 その後の内見で、2号店の物件と屋敷の購入を決め、合わせて改築もお願いしたが、それなりの期間がかかるらしく、悠真は再び暇を持て余すことになった……。


 「暇だ……」

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