第38話 ユタ家へ訪問

 懇親会が終わってから数日後、悠真はパティの経営状況を確認するために、損益計算書に目を通していた。


 「売上げが予想以上に出てるな。開店して間もないし、もうちょっとすると落ち着いてくるか。原材料費は……、大量に一括購入して抑えれそうだな」


 今は客足が途切れることなく続いているので問題ないが、落ち込んだときのための対策を考えていると、カトレアが執事とメイドを連れて来店した。


 「ユーマさん、先日は有難う御座いました」

 「お力になれたようで何よりです」


 1人のお客として来店した様で、着席して早速プリンを注文した。


 「プリンのイチゴソースをお願いします」

 「ルビア、よろしく」

 「かしこまりました」

 「ところでユーマさん、明日とかご都合はいかがでしょうか? お父様がユーマさんのご予定を聞いてきてくれと言っていたのですが」

 「私は大丈夫です。それではお昼過ぎにお伺いしてよろしいでしょうか」

 「ではその様に伝えておきますわ。ところで先日のフレンチトーストはこの店で出さないのですか?」

 「もちろん販売しますよ。今はタイミングを窺っていますね」

 「タイミングですか?」


 あれだけ美味しい物を早く売り出して、早く売上げに繋げればいいのに……と思うカトレアの心を読んだのか、悠真が回りを気にしながら、小声で答える。


 「ええ、もう少しするとこの店も落ち着き始めて、売上げが減少すると思っています。減少したときに、『王城の懇親会で大絶賛されたフレンチトースト!』と言った触れ込みで販売すれば、減少した売上げの回復も一緒に狙えると考えています」

 「凄いですね。私は単純に早く売ればいいのにとしか思っていませんでした」

 「どうせ発売するなら、最善のタイミングが良いですからね」


 そんな会話をしていると、ルビアがプリンのイチゴソースをカトレアに、プレーンのプリンを悠真の下へと運んできた。


 「ユーマさんはプレーンが好みですの?」

 「はい、ソースをかけるのも好きなんですが、プレーンの方がその物の味を楽しめますからね。シンプルなのが一番ですね」


 その返答を聞いたカトレアは、ハッとした表情で呟いた。


 「今日の私、着飾りすぎたかしら……。シンプルがいいのね」




 翌日のお昼過ぎ、ユタ家の応接間にはルシアンとカトレア、悠真の姿があった。


 「ポテトチップスの件はすまなかった。私もカッとなってしまったことは否めない」

 「私も彼の言動には思うところがあったので、結果的にですがスカッとしたので私としても嬉しかったです」


 ルシアンから、先日のフライドポテトを勝手に受けてしまったことについて謝罪を受けるも、悠真もスカッとできたので、溜飲が下がり、結果的に受けてくれたことについて感謝をしたいくらいだ。


 「そう言ってくれると助かる。ところであの知識はどこで学んだんだ?」

 「昔にちょっとだけ作ったことがあったんです。ただ、ほとんどは王城の調理室で考えたり、思いついたり、ヒントを得てでました。環境と偶然の産物ですね」

 「あの場であれだけの物を作り上げるとは、素晴らしい才能だな。ユーマ殿さえよければ、ぜひユタ家専属の料理人に迎えたいんだが、どうかね?」


 公爵家専属の料理人。一般の人からしてみれば、スイーツ店からの大出世であるが、悠真は神様からの依頼の件もあるが、この世界をもっと知りたい、楽しみたい、冒険したいという気持ちが大きく、せっかくの申し出ではあるが断ることにした。


 「すみません、店もありますし、まだまだ冒険もしてみたいと思いますので、せっかくの申し出ではありますが、お断りさせて頂きます」

 「そうか。それなら、店を継続しながらでもいいし、気の済むまで冒険が終わってからでもかまわないぞ」


 そこまで言われたら無下に断るのも失礼であると考えた悠真ではあるが、料理に関する知識をプロ並みに持っているわけでもなく、自信が持てないため、やはり断ることにした。


 「そこまで私を買って頂いて、非常に光栄ではあるんですが……申し訳御座いません」

 「そうか。残念ではあるが恩人を困らせるのも失礼だな。それなら気が変わったらぜひ声をかけてくれ。ところでだ、実は王城の料理長からも声がかかっているんだが……断れば良いか?」

 「はい、お断りして頂ければと存じます」


 自分の専属の件を先に言ってくる辺り、したたかな公爵だ。自分の専属を断ったならば、王城の件も断るしかない。自分の専属を受けた場合も、一度受けたことを断ってまで王城の件を受けることもできない。王城の件はどちらにしても芽は無かったということだ。

 しかも王城の件も伝えているから、料理長に対してもなんら問題はない。


 「ところで、聞いたところによると、ユーマ殿はグリフォンを従えているとか。一度伝説の魔獣と言われるグリフォンを見せてはもらえぬか?」

 「かしこまりました。今は自宅で待機していると思います。この部屋に呼ぶわけにはいかないので、一度外までお願いできますか?」


 そう言って外への移動を促した悠真は、ルシアン、カトレア、その従者とともに外へと移動していると、ルシアンがカトレアに話しかけていた。


 「カトレア、今日はいつもよりも服装がシンプルじゃないかね? もっと着飾った方が可愛く見えるんじゃないのか?」

 「お父様、着飾ると本質が見えなくなります。シンプルな方が良いんですわ」

 「そうかなぁ。着飾って可愛く見える方が良いと思うんだがなぁ」

 「殿方の好みは色々ですわ」

 「なに。まさか意中の男がいるのか? そいつに合わせてるんじゃないだろうな」

 「そ、そんなことは無いですわ。今日はシンプルにしたい気分なだけです」


 当の悠真は……。


 「こんなに離れててもグリに伝わるかな……。伝わらなかったら恥ずかしいな……」


 なんて考えていた。




 ユタ家の中庭で、ルシアンとカトレア、悠真に加えてグリが戯れていた。

 先ほど悠真が心配したようなことはなく、悠真が呼んでいると感じたグリは嬉しそうに家から飛び出し、悠真の下へと文字通り飛んで行った。

 一方ユタ家では、従魔登録してあり、まだ小さいとはいえ、グリフォンが飛んできたため、門番がパニックになりつつも、ルシアンとカトレアを護衛しようとルシアン達の下へ走ってきたため、慌てて悠真が説明する場面もあった。

 そんなこともあったが、今はカトレアがグリのモフモフ具合を堪能している。


 「色々な魔獣を見てきたが、さすがに伝説の魔獣グリフォンは初めて見たな……」

 「凄く可愛いですよ、お父様」

 「グルゥ」


 カトレアがグリと戯れている姿を見たルシアンは、恐る恐るではあるがグリへと手を伸ばし……触った。


 「おぉ、思ったよりフワフワで心地よいな」

 「そうでしょお父様。この子可愛いわ」


 グリに抱きつくカトレアだが、グリが困ったような目で悠真を見上げている。


 「グルゥゥ」

 「そろそろその辺で……グリも困っておりますので」

 「おお、すまない」

 「ごめんなさいねグリちゃん」

 「グルゥ!」


 解放されたグリは、悠真の足下へ移動し、毛繕いを始めた。


 「すまないね。聞き及んでいるグリフォンとのギャップが凄くてね」

 「そうみたいですね。俺からするとこんな可愛いのに、破壊の化身と言われてもあまりピンとこないのが、正直なところなんですけどね」

 「ところでそのグリフォンは、ディオネダンジョンの9階層で従魔にしたんだったな」

 「ええ、タマゴが安置されてまして、近づいてみると足腰から力が抜け、タマゴが孵化して懐かれたって状況でした」

 「ふむ……。そんな場所にタマゴが安置されていることが不思議なんだが、何か心当たりはないか?」

 「全く心当たりがないですね……」

 「何かわかったら教えてくれると嬉しいな。疑問は少しずつでも解消していきたい」

 「かしこまりました」

 「そうだ、すまん。すっかり忘れてたが、料理長の件だけでなく、王様からユーマ殿を呼んでくるように言われていたんだった。グリフォンも連れて来るようにとの仰せだ」


 あまり見世物になるのを好まない悠真は、断りたいと思った。が、先ほど料理長の件を断り、今回も断るとさすがにルシアンの顔を潰してしまう。そもそも国王の依頼だ。断るのは難しい。そう考えた悠真はしぶしぶながらも、伺う旨を伝え、日時を聞き、帰路へとついた。

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