第27話 出発

 先日のパンをカリカリに焼いたものを改良しようと、悠真は色々と試行錯誤している。

 パンに甘みを付けるために砂糖をまぶしてみるが、ただ甘いだけの深みの無い甘さになってしまい、パンに練り込んでみるとほのかに甘く感じたが、ソースの甘さと同化して砂糖の甘さが消えてしまう。

 それならばそもそもパンではなく、元から甘みのある物で作れないかと考えつき、悠真は今、市場をチェックしにきている。


 「いらっしゃい。今日も安いよ」

 「お兄ちゃんちょっと見てって。今朝とれたばかりの野菜だよ」

 「古着―。買い取りもするよー」


 食料品や衣類、雑貨など、色々な出店が出店しており、人々の往来が激しく、活気があり、市場がにぎわっている。


 「兄ちゃん、ちょっとこっち寄ってきな。美味しいトマトあるよ」

 「トマトか……1つ下さい」

 「あいよ。銅貨4枚だ……まいどあり」

 「久しぶりにトマト食べる気がするな……美味い」


 久しぶりに食べたトマトが思いの外美味しく、上機嫌になる悠真。

その耳に届く女の子の声があった。


 「コーンだよー。太陽いっぱい浴びて甘くて美味しいよー」

 「コーンもしばらく食べてないか……1つ下さい」

 「有難う。銅貨30枚です。茹でてありますので熱いので気を付けて下さいね」


 トマトも美味しかったが、コーンも甘くて美味しい。悠真は焼いてあるもの好きだが、塩茹でした方が好みだ。

 ふと悠真は考えた。

 これをもっとふかふかになるまで炊き上げ、つぶしてクリーム状にすれば砂糖じゃない自然の甘みを出せるんじゃないか。

 そう思った悠真は先ほどの出店に戻り、塩茹でする前のコーンを大量に買い上げ、パティに駆け足で戻り、試作に取り掛かった。




 塩茹でした大量のコーンを芯からバラバラにした後、手の空いているメイドに手伝ってもらいながらローラーで潰す。ザルを通して皮を取り除いた後、少量の塩を振ることでコーンの甘みをより引き立たせる。小麦粉をコーンクリームに混ぜて伸ばした後に、オーブンで焼き上げてパリパリになった生地を悠真は食べてみた。


 「おっ、パンと違ってこれだけでも美味い。しかも砂糖の甘さとは違うから、ソースをかけたらソースの美味さがもっと引き立つかも」

 「あたいもこれ好きっす。ソースかけて食べてみたいっす」


 一緒に試食しているのはメイドのミモザだ。パティでシュークリームを作っていたんだが、手が空いていたので試作を手伝ってもらっていた。


 「もうちょっと厚みがあった方がコーンの旨みがわかるかもね」

 「そうかもしれないっす。少し厚くした試作を作ってみるっす」


 先ほどの試作と比べ、2倍ほど厚くした試作を食べてみると、カリカリに焼き上がり、コーンの旨みも十分に感じられる試作品が完成した。

 ミモザの提案で、ソースを乗せたあとに牛乳をかけて食べてみると、日本で食べているコーンフレークのようなものが完成した。


 「これ美味いわ。これを新商品にしようか」

 「これも売れますね、絶対」


 まずは試験的な導入を考えていた悠真だが、その後に他のメイドにも食べてもらったところ、かなりの高評価を得たため、試験的な販売は取りやめ、いきなり本格的に新商品として売り出すことを決めた。

 また、コーンフレークの製造を孤児院で行い、パティがそれを仕入れることで、孤児院の新たな収入源にもなるし、パティのメイドの仕事量が激増することもない。


 「シスターにコーンフレークのレシピを教えに行かないと……。ダンジョン出発前に仕事が増えた……」




 シスターや孤児達は普段から料理をしているからか、レシピを教えたところすんなりと習得してくれた。また、継続的に生産し、パティに納品してもらうよう段取りをつけた悠真は今、セラとリリー、アドニス達4人と一緒に、リシテア行きの乗合馬車に乗っているが、アドニス達4人は経験を積むためにも、護衛の冒険者達と一緒に周囲を警戒している。


 「何も起きないじゃん。鬼ヒマなんですけど」

 「ステラ、ちゃんと周囲を警戒して。無理を言って一緒に警戒させてもらってるんだから」

 「はーい」


アドニスに注意されたステラは、ふてくされた様な顔で返事をしたが、護衛の冒険者の1人に注意されてしまう。


 「ステラちゃん。魔物だけじゃなくて、盗賊に襲われるときもあるからね。草むらから急に出てくるから、その林も注意が必要よ」

 「ごめんなさい」

 「前から別の馬車が来たぜ。チターニアに向かってる乗合馬車かな?」


 ボルガが前方から1台の馬車が接近していることに気が付く。幌馬車が1台のため乗合馬車と判断したのだろう。


 「ん? 何かあの馬車変じゃない? 何が変なのかわからないけど……」


 そう言うのはアドニスだ。馬が幌馬車を引っ張り、御者がいる。一見普通に見えるが、リッシの次の一言で緊張が走る。


 「あの馬車に護衛の冒険者がいないんじゃないかな。魔物とか周囲を警戒していないように思う」

 「アドニスとリッシ、良くやった! 全員警戒態勢を取れ!」


 護衛の冒険者のリーダー格の男が声を上げる。魔物が普通に人を襲う世界で、護衛無しで移動するのは、御者が凄い手練れか、あるいは同乗者が戦える者だ。しかも周りを警戒していないということは、襲われる心配がないということを知っているということになる。明らかに異常だ。

 正面から来た違和感を感じる馬車が、悠真達を乗せた馬車とすれ違う寸前、斜めに停車し行く手を阻んだ途端、馬車から武装した盗賊が飛び出し、悠真達の後方の草むらからも盗賊が現れ、襲い掛かってきた。


 「アドニスとステラは後方の援護を頼む、ボルガとリッシは前方だ! お前らも適宜散開してくれ!」


 リーダー格の男がアドニス達4人と、パーティーメンバーに指示を出し、それぞれが盗賊に対面する。悠真はアドニス達の経験のためと考え、とりあえず静観するが、ポーションの準備、そしてハイヒールを躊躇せずに使うことを決めた。


 「ガキは引っ込んでろ! 邪魔だ!」

 「うわっ!」


 危ない! と思い、加勢しようとした腰を浮かした悠真だが、ステラが風魔法のエアバレットで援護する。


 「アドニス大丈夫?」

 「すまない。助かった」

 「くそっ、魔法使いがいるのかよ」


 前方でもボルガやリッシが苦戦しており、護衛の冒険者も想定外の盗賊の数に苦戦しているため、このままだと人数差で押し切られてしまう。そう感じた悠真は、自分は他の乗客を護衛し、セラを前方、リリーを後方の応援に向かわせる。


 「セラ、リリー、頼む」

 「承知しました」

 「わかったニャ」


 馬車から飛び出したセラとリリーに、盗賊は怯んだ。


 「新手がいるのか!」

 「ご主人様の憂いを断たせて頂きます」

 「覚悟しろニャ」


 セラとリリーが飛び出してからは、特に危なげなく盗賊を無力化していくことに成功した。




 盗賊を縛り、馬車は再びリシテアへと進み始めたが、悠真はアドニス達4人を盗賊が乗ってきた馬車に集め、先ほどの戦闘の反省会を促した。

 自身が改善すべきと思う点と、他の人はどこを改善すべきか。それをお互いに話合うことが、成長するための一歩になることを、悠真は日本で自身が受講してきた研修、そして社員教育から学んでいる。

 アドニス達が真剣に反省会に取り組んでいる姿勢と、今回のダンジョンでの安全性を考慮し、それぞれの戦闘スキルをエディットで1段階上げようと悠真は考えていた。

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