第22話 新商品の開発

 物件を契約した次は人手不足を解消しようと、悠真は奴隷商会へ来ている。


 「ユーマ様、こちらが当奴隷商会に在籍しております、家事スキル持ちの奴隷になります。」


 悠真の前には4人の家事スキル持ちの奴隷がいる。今回は4人と考えているため、全員を引き取るつもりだ。

 アニュラスが自己紹介を促し、その間に全員に鑑定を使用すると、全員が家事スキル持ちであることを確認し、1人が家事D、3人が家事Eであることを確認した。


 「それではこの4人を引き取らせて頂きたいのですが、いくらになりますか?」

 「ご贔屓にして頂いておりますし、4人ということですので割り引きさせて頂きまして金貨65枚でいかがでしょう」

 「わかりました。有難う御座います」


 金貨をマジックバッグから取り出しテーブルの上に並べている間に、アニュラスは奴隷達を退室させ、支度を整えるよう促した。


 「確かに金貨65枚頂戴しました」


 金貨を受領したアニュラスは、前回の様にグラスを1つ悠真の下に用意し、ワインを注いだ。


 「それでは支度が整いますまで、しばらくお待ち下さい」


 アニュラスが出て行く後姿を見た悠真は、これから先のことを考えていた。

 物件を契約し、人手も揃えた。あとは調理器具を揃えればとりあえずは大丈夫だろう。ただ、せっかく店舗を構えるにあたって、シュークリームだけではもったいない。新商品を同時に発売し、店内飲食限定とすれば、飲み物も併せて売れるため売上げの確保に繋がるだろう。また、店内での飲食をしない人のために、店内に入らなくても購入できるような仕組みを作れば、同線が交わらず、混雑の回避にも繋がるし、回転率も良くなるのではないか。

 そう考えた悠真は、商業ギルドで内装の打ち合わせを改めて行うことを決め、支度が整った4人の奴隷と帰路へと着いた。




 「自分はエレンと申します。よろしくお願いします」

 「ミモザって言うっす。よろしくっす」

 「うちはフローラです。よろしくです」

 「私はアイリスなのです。よろしくなのです」


 帰宅した悠真は、セラとリリー、ルビアに対して4人に自己紹介を促した。


 「基本的にセラとリリーは冒険者活動、ルビアが家事と商業担当を考えてて、エレンとミモザ、フローラ、アイリスの4人はルビアの下で同じく家事と商業担当を頼みたい。解らないことがあったらルビアに聞いてくれればいいし、ルビアはこれからメイド長、4人はメイドということでよろしくね」

 「かしこまりましたご主人様。誠心誠意尽くさせて頂きます」

 「1つルビアにお願いがあって、新店舗でスイーツを作るのに必要と思われる調理器具を見繕ってくれるかな?」

 「店舗を構えるとおっしゃられていましたので、勝手ながらこちらに書き出しております。ご確認下さい」

 「ありがとう。助かるよ。後で買いに行ってくるから、ルビアは4人にシュークリームのレシピを教えておいて。早速明日から4人にも頑張ってもらうから」

 「かしこまりました」




 翌日、ルビアと共に4人のメイドが、シュークリームを200個作り上げ冒険者ギルドへ向かった後、悠真は新商品を開発しようとキッチンでプリンのレシピと材料を、眉間に皺を寄せながら思い出している。


 「確か材料を混ぜて蒸せば良かったはず。カラメルソースは……砂糖と水を煮詰めるんだったかな……。分量は……また手当り次第にやってみるか。」


 まずは鍋に砂糖と水を入れ、煮詰めてみた。ふつふつと沸いてきたので中火にしてかき混ぜてみると、砂糖が結晶化してしまい失敗した。

 次はかき混ぜずに鍋を揺らす程度にしたところ、良さそうなカラメル色になったので、お湯を投入するとバチバチと跳ねだしたが、落ち着いたところでなじませる。出来上がったものはカラメルソースというよりも鼈甲飴……。


 「失敗かぁ。水が少なかったか? それともお湯がぬるかったか?」


 再度挑戦し、今度は水の量を増やし、お湯の温度も高くして挑戦するが、煮詰めすぎて苦い。


 「うげぇ。絶対煮詰めすぎたなこれは……」


 失敗しながらも何回か挑戦したところ、なんとか及第点と思われるのカラメルソースが出来上がった。


 「まぁとりあえずはこれくらいで、あとは砂糖の量とか時間とかを調節して改良していけばいいか。次はプリンだな」


 カラメルソースが出来上がり、プリンに挑戦しようとしたところで、ルビアを含む5人のメイドが帰ってきた。


 「ご主人様、何か焦げ臭いのですが大丈夫でしょうか?」

 「ちょっと失敗が続いてね……とりあえず及第点っぽいのはできたからもう大丈夫かな。ところで、今日もやっぱり並んでた?」

 「はい。日に日に並ばれる方が多くなってきておりますが、1人1個の制限と、列の人数をカウントして、200人以上になった場合には在庫がなくなった旨をお伝えしており、本日は特に大きなトラブルは御座いませんでした。ただ、ギルドマスターがご主人様に顔を出して欲しいと言っておりました」

 「予想以上に売れてるから、その件でなんとかしてくれって事かなぁ。明日にでも行って、店舗の現状を報告してくるよ」

 「かしこまりました。よろしくお願いします」

 「さて、俺は今からさっきの続きをしようと思うんだけど、ルビア手伝ってくれるかな?」

 「かしこまりました。それではエレンは家の中の掃除をお願いします。ミモザはご主人様が使用された調理器具の後片付け、フローラは家の外の掃除、アイリスは私のサポートをお願いします」

 「承知しました」


 4人が声を揃えて答えると、各自支持された持ち場に移動し始め、悠真達3人はプリンの生産に挑戦し始めた。

 まずはタマゴ、牛乳、砂糖をよく混ぜ合わせた液を作り、ザルで濾した後、容器に入れて蒸し、固まるのを待った……が、いくら待っても固まることは無かった。おそらく牛乳の分量が多かったのだろう。牛乳を減らしたところ無事に固まった。

 しかしながら今度は、プリン内部にブツブツと気泡が入り失敗した。蒸す前にはそんな気泡は無かったはずであり、蒸している間に液が沸騰してしまったのではないかと考え、蒸すためのお湯の量や温度を幾度と変更し、最終的には綺麗なプリンが出来上がり、現在はカラメルソースと共に冷蔵箱の中にある。


 「やっと完成したけど、商品開発が難しいって、改めて感じるね。多少の知識があっても経験がないから、失敗ばかりだったし」

 「そうですね。ご主人様は何やら知識をお持ちのようでしたが、全く知識やレシピが無い状態からの商品開発は、さらに難しいのではないかと存じます」


 商品開発が成功したとしても、ニーズが無ければその商品に需要は生まれず、有象無象の1つになってしまう。それを軌道に乗せて行くために試行錯誤するのも楽しかったりするのだが、今回はシュークリームでスイーツに対するニーズが高いことは明白だ。そのため悠真は特に問題なくプリンも受け入れられると考えている。

 しかしながら事前リサーチをして裏付けを取りたいと考えている悠真は、セラとリリーに加え、メイドの5人と冒険者ギルドの受付嬢にまた試食を依頼しようと考えていた。

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