第35話 False Accusation

それは青天の霹靂だった


1984年9月13日深夜 アレクサンドル・ザナソフスキーという民警が

自宅にアポなしでやって来て 私に任意同行を求めてきた

任意と言いはしているが 事実上私に拒否権はない


嗚呼 とうとうこの時が来たか

私は頭の片隅で思い描いた

最悪のパターンを考えた


ここ最近ずっと誰かに見られている感があった

いい年して甘酸っぱいソレとは考えられない上

出されていた視線も非常に鋭い感があったので

私はそれを民警による監視と捉えていた


何処かで尻尾を出してしまったか?

出ていたならどれ程か?


私が寝惚けた頭で思い返す その間

民警達は私の手荷物検査を独断で行い

その中にロープと料理用包丁を見付けた


ロープはトルカチの仕事で荷物の固定に使うもので

予備用として常に鞄の中に入れていたものだ

包丁もトルカチの仕事で向かった先の宿舎で

料理する為に入れた物だったのだが


民警はそれだけで私を逮捕した

何を言っても聞く耳持たなかった


その時に私は直感で理解した

ああ 大した物は見られていないなと


誤解があるようなので解いてくるよ

私は妻子にそう言ってから分署に同行した

どのようにしてこの場を乗り切ろうか

可能性と手段を考えながら向かった


まず必要なのは情報収集


状況の把握とボロを出さない為に

私の方からベラベラ喋ってはいけない

変な疑いをもたれないように

卑屈な態度を取ってもいけない


私はたまたま運悪く民警に同行させられた

運の悪い一市民の態度を貫いたところ

状況が次第に見えるようになった


現在の時点で民警が見たのは

私がロストフのバス停で子供に話しかけた姿だけだった


私はそれを知り 内心だけでニヤリと笑った

それは何も見ていないも同然だった


何年も前のことならばともかく

ここ最近このロストフで人を殺してはいない


あの時子供達に話しかけたのも

その反応から情報を得る為で 殺しの為ではない

子を持つ親程不穏な情報に敏感で

何かしら言い聞かせてるかを感じ取りたかっただけだ


そこからは殺しには結び付かないし

殺しに関する何かにも結び付かない


そこから見える私の姿は

あくまで善良な一市民のままだ


その裏側に怪しい顔がありそうなんだがな

ザナソフスキーは口にはしないが 顔でそう言って

24時間以上は行えない拘束を延長した


私の勤務先の状況を即座に調べ上げ

リノリウムが数メートル分紛失した一件を

バッテリーが窃盗されたかもしれない一件を

私が容疑者だと無理矢理通したのだ


そんな物盗んでどうするんですか?

売れないし 売っても金にはならないですよ

などと言っても聞く耳持たなかった


彼等は私が冤罪と分かった上で

さらに上の立場の者に取り調べを委ねた


証拠はまだ見付けられていないが

法を扱う者に今の私がどう見えるのか

その点を少し不安に思いながら

私の釈放に向けたの戦いはまだ続く


そう 私はこの戦いに必ず勝たねばならない

不安を抱き 家で帰りを待つ妻子の為に

そして 明日の殺しの為に


この青天の霹靂を越える

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