第34話 The Wall Between Couples

私はずっと変わらぬまま

周囲もずっと変わらぬまま


そう 家に帰ると今も

妻子が私を迎えてくれる


私の日常は何も変わらなかった

フェーニャ達家族のとの時間も何一つ

私の日常は何も変わらなかった

トルカチとして働く日々も何一つ


ただ時が過ぎていっただけのようだ


フェーニャは少しずつ老いてきた

それでも彼女が良い婦人なのは変わらない

子供達はすっかり大人になってきた

それでもずっと良い子なのは変わらない


少なくとも私のような社会のクズ

シリアルキラーではない


彼等はリビングでありきたりな

でも平和な話を楽しそうにしている

私はそんな話に相槌を打ちながら

内心で昨日の殺しを思い出している


それでも私が結婚してからずっと

チカチーロ・ファミリーは何だかんだ幸福に包まれていた


妻が穏やかに微笑み すぐ傍に成長した2人の子供がいる

少し離れた所では 妹夫婦も微笑んでいる


誰もが幸福を感じていて

不満を抱く者がいなかった


こんな夢の光景を実現させることを

昔の私はきっと夢想し そして突然

私の所に舞い込んできたのだ


フェーニャや子供達は何も変わらない

心の内はあの頃からずっと

チカチーロ・ファミリーも何も変わらない

心の内はあの頃からずっと


私もまた その中の一人であったのに

今は彼等との間に大きな隔たりを感じている


それは全て私のせい

私が変わり果てたせい


そう言えば最近 体を求めなくなったよね


ある日ある時 フェーニャにそう言われ

私は内心愕然とした

その時は もう年老いてきたからだろう

そう言ってお茶を濁したのだが


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ


ずっと抱え続けたそのコンプレックスを

打ち勝とうとしなくなっていたどころか

男が普通の男である証としての

通常の性欲すら抱かなくなっていたからだ


私はただ 赤の狂気に溺れ

私はただ 血と肉を求めていた


これではもう 私は普通の男ではない

ただの赤い切り裂き魔

化物だけれど


もう フェーニャとのセックスに官能を感じなくなっていた

人の肉体の破壊にしか官能を感じなくなっていた

もう フェーニャの手料理に味を感じなくなっていた

殺した人の血肉にしか味を感じなくなっていた


こんな化物が 食屍鬼が

彼等との間に隔たりを感じるのも無理はない


化物はずっと化物のまま 人には戻れない

死神はずっと死神のまま 人には戻れない


昨日も今日もそして明日も 殺れる限り人を殺し続ける

朽ち果て骨に還る その最期までずっとずっと

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