第27話 In the Shaky Shack -Whores-

私は人気のない森の中に

一件の小さな小屋を持った

妻には内緒で貯めたへそくりで

こっそり買った秘密の家だ


私はそこに一人の売春婦を招き入れていた

レーナのような子供ではない

普通の売春婦だ


あんな地獄の業火のように激しい悦楽は

未だかつてなく 今もまたない


嗚呼 あの官能をまた味わいたい

空を見上げながら 私はそう思うようになっていた

あの官能にまた溺れてしまいたい

通りかかる人を見ながら そう思うようになっていた


フェーニャ相手にあんな官能を求められないから

私の意識は外へ 外へ

私の欲は外へ 外へ


嗚呼 外へ行きたい 行ってみたい


脳内でそう考えるようになってから

家庭とは全く別の 所謂情欲の帝国計画を

私は密かに推し進めていた


今日はその帝国のこけら落としだ


招いた売春婦は小さな小屋の中を眺め

ボロっちい家ねと呑気に笑った

ここはプレイの為の別宅だと適当に話すと

貰える物しっかり貰えれば何でもいいと

やはり彼女は呑気に笑った


私はそんな彼女にお金を見せる

求められた額に少し色を付けたものだ

彼女にそんなお金を躊躇なく渡すと

彼女は笑顔で服を脱ぎ始めた

全く呑気なものだ


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

そんなこともあったけれども


もし ここで普通に抱くことができたならば

祝い金として全額彼女にあげてもいいのだが

もし いつも通り普通には抱けなかったら

強制的に全額返してもらうことになるのに


私は脱ぐ彼女に呼応するように

下の衣服をするすると脱いでいくのだが


私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

私ハ去勢サレタカラ 異性トハ突キ合エナイ

永遠ニズット 死ヌルソノ日マデ


嗚呼 やはり私のイチモツは 小さいまま 不能のままだった

ターニャに笑われたあの日のまま 何も変われていなかった


アハハハハハハハ 私のイチモツを指差し

売春婦は下品な声を上げて大笑いした

不能じゃないの ダメチ☆コじゃないのと

何故ここが人気のない森か考えぬまま

売春婦は呑気に大笑いした


フハハハハハハハ 彼女に呼応するかのように

私もまた大声を上げて笑い 嗤い


そのまま彼女の口を塞ぎ

別の手で首を締めながら押し倒した

唖然とした彼女を見下ろし

私は愉快な気持ちで懐からナイフを抜いた


今 私ハ帝国ノ皇帝 オ前ハタダノ肉ダ

私ニ食ワレテシマエ 食ワレテシマエ

ソシテ死ネ


彼女の口を塞いだまま 床にその頭を打ちつけながら

彼女の肉をナイフで切り刻んでいった

彼女の朱を浴び 彼女の朱を舐めながら

彼女の肉をナイフで切り刻んでいった


嗚呼 全てが朱色に彩られ

狂おしい赤に溺れながら


地獄の業火のような激しい悦楽が

また私のところへやって来てくれた


彼女の朱が 熱が この全身に感じられる

それを浴びる私の体全てが

まるで性感帯のようだ


血肉熱死 血肉熱死 血肉熱死

肉肉赤赤 肉肉赤赤 赤赤赤赤


私の脳内は全て朱に染まり

沈黙した売春婦はただ

朱を吐きだし続ける


私はふと気付くと

レーナの時と同じように射精をしていた


体中の精が搾り取られる程たくさん

土砂降りの雨のように降り注いでいた


嗚呼 彼女の朱と私の白が混ざり

その果てに黒く朽ちて逝く


私はその様を見ながら嗤っていた

先程の官能を脳内で反芻しながら

そして


思い付く限りの愛の言葉も吐いてやろうとしたが

そこで私は彼女の名前も知らないことに気付き

その死体を見下ろしながらまた笑った


それから私は彼女の死体を森の奥深くに捨て

小屋の中を綺麗に掃除して片付けた

小屋から朱の世界を見えないようにしたら

まるで何事もなかったようだった


今回はそれでお終い


レーナの時は いくら逃げても

この手からレーナを抱いた感触は消えなかった

レーナの時は いくら目を閉じても

私の脳裏からレーナの姿は消えなかった


いつでも彼女の微笑みが心にあった

いつでも彼女の匂いが心にあった

いつでも彼女の死相が心にあった


私の心を啄み 嬲り殺す

そんな呪いがあったけれど


いくら目を閉じても いくら想いを馳せても

あの売春婦の生前の顔はもう思い出せず

死相だけが朧気に思い出せた


私はあのナイフのように銀に光る月を見上げ

こんなものかと独り口元を緩めていた


振り返れば後ろにはあの小屋がある

何も変わらず見えるあの小屋がある


私は人気のない森の中に

そんな一件の小さな小屋を持っている

妻には内緒で貯めたへそくりで

こっそり買った秘密の家だ


私はそこにまた一人の売春婦を招き入れていた

レーナのような子供ではない

普通の売春婦


そう 次の獲物だ

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