4 平行線上のキミ

 思えば、簡単なことだった。簡単で単純なことであったのに、肥大化したぼくの自意識は、そんなことにも気づけずにいただけだった。


 無駄に傷つけられた心地がして、ぼくは放るように本を返すと、それからできる限り、図書館に近づかないようにした。

 陽気な友人たちとお喋りに興じても、やはりキミの名前は出てこない。だが、もはや憐れみも、ほんのりとした優越感も覚えられなかった。おそらく、キミの所属する世界の中でも、ぼくらのことはちらりとも話題にのぼらないと、気がついてしまっていたから。


 二つの線が、ひたすらに平行している。決して交わることのない線を覗いてしまい、ほんのりと焦がれてしまったのがぼくだ。ぼくがどれだけ歩こうと、この線の上に、キミの線が交わることなんてありはしないのに。


 卒業式の日、ぼくは友人と笑っていた。笑いながら、キミも笑えているのか気になって仕方がなかった。その反面、顔を見るのが怖かった。あの日、色もなくぼくを通過していったあの目をまた見るのが、怖かった。


 誰かが、集合写真を撮ろうと言った。ぼくらは集まり――そしてその後、方々に散った。学科内の人間で集まったのは、それ以降なく。ぼくとキミの線は、永遠に離れていった。

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