第49話2-13-1.インターハイ全国大会①

―――僕は珍しくバスの中で上機嫌だった。朝も早いがZ班の面々も全員乗っている。


今回はちゃんとバスで全国大会へ行けるのだ、素晴らしい。

Z班第1部のみの貸し切りバスだ。余計な気は使わなくて済む。まあしかしほとんどのチームは数日前に現地入りしており・・・つまり国立闘技場内あるいは周囲にホテルを取るため当日移動しているチームは少ない。

しかし僕的には下手したら走っていくかと思っていたのだから上等だ。


機嫌がいいのはなんといってもこのクズ揃いのZ班が全国大会にいけるなんて・・・というわけだ。しかも全国大会での成績なんてもうこれ以上関係ないし。まあつまり僕は自衛大学の召喚学部特科にほぼ確実に推薦で入学できるのだ。召喚学部特科というのは元々はいわゆる竜騎士大学だ。竜王に仕えるのが竜騎士であるから神明家の者が竜騎士になる大学に入ると言うことは王権の放棄となるわけだ。姉がそうであったように竜王位継承権から外れることができる・・・つまり呪殺されるリスクが減るだろうということだ。



時間もあるし少し整理しよう。

残り少ない時間の僕の行動理念は・・・。

復讐。

義務。

償い。

こんなとこだろう。復讐相手は多い・・・まあ最低最小限でいこう。

義務は4000年続く竜王家の末裔として・・・これにはできる限りのことはするべきだろう。

そして償いは・・・これは難しいだろう。


今後、考えなばならないものは・・・。

まず西園寺グループだ、復讐相手も多数いるし義務も果たす必要があるだろう。

企業は利益を上げ続けなければならない。例えばテロ組織の“ゲヘナ”と対テロ特殊グループもある“ソードフィッシュ”を戦わせる・・・“ゲヘナ”も“ソードフィッシュ”も西園寺グループの末端組織である。つまり煙の無いところにいくらでも戦争を起こせるし、それによって西園寺の軍事産業もさらに栄える、あるい他国へのいいデモンストレーションになるわけだ。

西園寺の軍事産業の目玉は人口召喚獣や人工召喚士、空中戦艦、科学魔術技術・・・それこそ千差万別だが・・・いくつかの技術は竜王家が4000年間封印してきた御所の眠る次元環からの技術流用だ・・・完全に封印せねばならない。

ここで御所に眠るはずの最大級のヤバい魔法遺物としては“原始の船”と“竜王乃聖印”が挙げられるだろう・・・この二つを軍事的に利用すれば世界征服も可能だろう。

御所は複数ある。“原始の船”は僕の手持ちの次元環で見つけてクレアさまが採掘している・・・この点では西園寺グループに先んじているわけだ。


問題の“竜王乃聖印”は行方不明だ。


奴等・・・西園寺グループの所有する次元環のどこかにある可能性が高い・・・僕の持っている次元環は二つきりで、この国の残りの次元環はすべて西園寺グループの息のかかった政府機関が管理運営している。

4000年間にわたり200以上の次元環を安定させて世界を何度か滅ぼせるほどの魔族を封印している・・・それが“竜王乃聖印”だ。こちらが見つけるかもしくは・・・誰にも見つけられない措置が必要だ。


さて“ゲヘナ”はほぼ潰れて東アジアのテロや犯罪の・・・マフィアの大元締めはいなくなった。この力の空白に何かが飛び込んでくる可能性がある・・・気を付けねば。


“ソードフィッシュ”も危険だ、要は西園寺の私設軍隊と同義語だからだ・・・表向きは一流企業だが。



ん?何か光っている・・・目の前で・・・。

頭が輝く青木君が話しかけてきた。

「もけさん、きいてくださいよ。くふふふう。くふ」変わった笑い方をするな、ひょっとして星崎さんとの仲が進展したのでは・。振動が伝わってくる・・・そうそうずっとバスに揺られているのだ。

「青木君なにかいいことでも?」

「なんとこの青木小空にとうとう虹色太陽光が降り注いだのですよ。オーロラビームシャワーゲイザー!」意味マジわかんねえ・・。

「そうだね。よかったね」

「第6高校1-CのJKからですよ。うぉおおおおおおお!よし来たコラ!!!恋文が届いたのでございますった!!!」

!!!!!!

マジ?ございますったって何?

「えええ?ホント?・・・いやまあよかった・・・ね」

「昨日から肌身離さずもってるわけなわけなんですヨ!イェエエエエエエエ!!!」そういってやや皺くちゃになった恋文とやらを胸元から取り出しハゲているくせに男泣きをし出した。

「読みますよ!よ、読みましょうか?もけさん・・・・いやあ読めません!」なんやねん。いやでも小声で一応きいておく、星崎さんは寝ているかな。オールバッカ―も村上君も熟睡している。

「星崎さんがいるから、こ、断るんでしょう?」

「それはそれ。これはこれですよ、超越者の娯楽でげす。すべての欲望を試すときが舞い降りたのです、げへへへ」青木君のくせに悪そうな顔をしている。


ん?青木君の恋文が座席の後ろからさっと奪われた。

「キエ~!色気づきおって青木!われわれはこれから戦地に赴くのである。・・・間違いない没収である」「そんなアフロ軍団長どのぉ!」といいつつ青木君はそんなに困っていないようだ。しかしZ班には身長150㎝台の男子が僕とか青木君とかダイブツくんとか3人いるわけだが・・・。

青木君に完全に一歩リードされているのでは・・・。身長は青木君が150㎝で僕が伸びて158㎝になり夢の160㎝まであとわずかだ・・・そういう意味では一歩勝っているはずだったのだが。もう一人の低身長のダイブツくんは今度はなんの本を読んだのか全く気配が無いな、すごいな。気配を消す本かな。


「そうか。青木君モテるんだね。僕なんてまだ恋文なんて一通ももらったことがないのに」

「クフフフフフ!クフウ!」今日は青木君。奇妙に笑うな・・・それがモテる秘訣なのだろうか。

「うーむ。時にもけ」アフロが後ろの席から話かけてくる。

「なんだいアフロ?」

「もけ・・・おまえも六道記念大会で全国優勝してから、いや桔梗戦に勝ってからか。かなり女生徒からの手紙の類をもらっておるであろう。おまえ端末もってないしメールもできんからのう」

「ああ、そうらしいね」

「そうらしいとはなんぞや」

「最近は城嶋由良さんが手伝ってくれててね」

「うむうむそれで?もけ。手紙の類はどうなってると理解しているのだ?」

「城嶋さんがいうにはファンレターはたまにあるけど、それ以外の手紙はほとんど怪文書ばかりだそうでね。処分してくれてる」

「ほほう。言い得て妙だのう。怪文書か。内容は確認しておるのか?」

「まっさか。そんな危険なもの読む必要がないでしょう」

「ファンレターは読んでおるのだな?」

「ああ、ファンレターはねぇ。読んでないね。似たようなことしか書いてないらしい」

「う~む。どこまで立ち返って説明すればいいか・・・うむ間違いない。不毛」アフロはクルっと回って寝る気か?

「え?なに?なんなの?アフロ?」顔を細かく振るアフロはすでに会話する気なさそうな気配だ。恋文とやらを持ち主の青木君に返して寝る気だな・・・。

・・・むう・・・もう寝やがった。


ん?狭いバスで今度はなんだ?

「じんめクン、ちょっとこっちへ来て。先生と黒川さんの間の補助席に座ってくれる?」タイガーの方からいつもは来るのに・・・。「全国大会中は抜け駆けしない約束なのよ先生と黒川さんはね?わかるでしょ?」「ええ?」なにが?


何だか分からないが狭い補助席に座る。右にタイガー、左にダークアリスが座っている。

「じんめ先輩。うれしいよ隣に来てくれて」社交辞令までそこそこできるようになったのかダークアリスは。微妙に手が触れている。

「あのね。神明クン。よく聞いてね」右隣のタイガーが肩を押し付け話しかけてくる。

「ええ?」なんなん?

「いま耳に挟んだんですケド、怪文書の話しなんですけど。・・・読んだことないのね?」

「ええありません」改まってなんなんや?

「神明クンにきてるお手紙はね。国語教諭として見解を述べさせて貰えるのならば」

「はい」

「・・・・・・完全に間違いなく危険な怪文書ね!読んではだめよ!目が腐ってしまうの!」

「えええ!?ていうか先生の目が怖いです」む?なんだ?後ろでアフロが吹いている。

「そう!先輩に妙なものを送ってくる奴等はアタシが関節折って再起不能に締めるんで!」

「えええ!?ていうか黒川さん具体的で怖いよ」コホン!今度は星崎さんが咳払いしたぞ・・?


「・・・コホン。あのね。かわゆいもけクン。よく聞いて。怪文書って多分絶対全部ラブレ・・・ふぁ!」タイガーとダークアリスがなにか圧力を飛ばしたようだ。ダークアリスにそんな技教えていないけど・・・タイガーが教えたのか。アリスの成長は目を見張るものがあるな、来年は強くなるだろう。タイガーとアリスは結構いいコンビなのかもしれない・・・ピリピリしているように見えて仲良さそうだもんな。


ガンガン!ガンガン!

信号待ちしているバスを外側から誰かが勢いよく叩いている。運転手が慌ててミラーで確認している。

霊眼でほとんど反応が無い。一般人か・・・。まあどうでもいい。


・・・あれ強引に前方のドアをこじ開けて入ってきた。

「ちょっと困ります。通報しますよ」とかやっぱり運転手のおじさんに怒られている、・・・一般人ならまかせよう。ちょっと眠いし。


「グモファ―――!グモファハァ―――!ハアハアァ!どうして先にいくのじゃ!さっきから!バス!待つ!運転手!バス!待たない!なんでじゃ!バス?ハア!どうして起こしてくれない!のじゃ!バス運転手!グモファッフ!」


んん?小柄で顔が大きくてパンチパーマで・・・どこかで見た事あるような人がすごい表情でハアハア言いながら入ってきた・・・変質者だな・・・?

あれ?ダイブツくんか・・・あれ?いなかったのか。

それにしても走ってバスに追いつくなんて成長したなあ。

新手の変質者かと思ったじゃないか。

「あら来たの?えっと・・・ダイブツくん?すみません運転手さん一応関係者です」一応って・・・タイガーって前も思ったけどダイブツくんの名前覚えてないんじゃ・・・ダイブツくんに噛みつかれてから相性わるいのかな。

でもすごいなダイブツくんの成長も。

「感動したよ。ダイブツくん。バスを追跡して追いつくなんて、どうやって追跡を?」

「疲れて、ハア!それどこじゃ、ハア!ないの、じゃあ!バス!止まる!バス!止まらない!・・・グモファー!ファー!・・・ああ疲れたのじゃ!汗でビチョビチョじゃ!着替えるのじゃ!グモ――!」

「脱ぐんじゃねえ!す巻きすっぞ!コラ!」ダークアリスって時々怖いな~、でもダイブツくんに向かって振り回してる手足は長いな~。カレシとかできれば優しくなるんだろうか?

ああ、バスの座席を壊さないでダークアリスさん・・・無理か。ダイブツくんは静かになったようだ。


さて少しだけ寝るか。


しかし全くもう誰だよ。ダイブツくんを置いていったのは。


「先輩・・・罪・・・寝顔・・かわいい・・・」

「ああ、先生・・・もう、もうダメ。襲います」「先輩に触んじゃねえ、コラ」



―――全国大会予選トーナメント―――

国立闘技場は広い。スタジアムが何層にもなっており相当な数の試合がこなせるだろう。


快晴だ今日は・・・10月になったばかりでしかも今日は平年よりやや気温が高いようだ。国立闘技場の周囲は巨大な公園なので各チームは外で準備運動して選手もかなりいるようだ。


全国大会は今日を含めて3日間行われる。

予選リーグと本戦リーグと決勝リーグがそれぞれ1日ずつ費やされる。

トーナメントではないためグループに分かれて総当たり戦になる。そうすることで本当に強いチームを選ぶとのことらしい。3日間は長丁場だがそもそも一日に7戦とかやらせる降魔6学園の予選の方がずっと過酷だろう。

ざっと全国から集まったのは80チームほどだろうか1チームは8人以上いるはずで、応援団やコーチ陣も含めると相当な人数が集結している。


召喚格闘の栄えある全国大会、インターハイの開催だ、まあお祭りのようなものだ。


我がZ班第一部は緊張などかけらもなく余裕だ。

そもそも全国大会に出れただけで奇跡だ。夏休み前にはほとんどのメンバーがTMPA7000以下の雑魚ばかりだったわけで。

「先輩、あたし気合でぶっ潰しますんで!」そういう身長178㎝のアリスは長い手足をストレッチしいる。見た目はモデル級なんですけどね。

そうこのダークアリスなんて召喚士ですらなかったのだから。


そうZ班は余裕だ。だって出場できただけですでに目標のそのまた上だろうから。

「き、きんちょうするなあ。おトイレの場所どこだろう」

「キエ―!村上!さっさと済ましてくるがよい」

「グモっちゃー!」

「ほう!ダイブツくんも気合はいっておるのう」

「都会ですからゲーノージン!ミラクルモラクルゲーノージンがいるかもしれませんよ!」

「青木!間違いない。もっと目立てばおのずと会えるであろう」「はぃいいい」

アフロも余裕だな。青木君とダイブツくんもすでに心は観光気分だろう。


青木君じゃないけど、まあ有名な選手も見れるかもしれないし。報道陣もかなり来ているようだ。

さっさと予選負けて何か美味しいものでも食べたいな。負けても今日はホテルに泊まれるらしい、ホテルかあ・・・どんなところだろう。おいしいのかな。ご飯はタダだよねえ。


「おれっち、やるぜ!やっと掴んだチャンス!おれっちを振った女どもに示す」

夏奈さんとかはどうなったんだ?・・・都会だし・・・そ、そうかひょっとしてオールバッカ―はナンパとかいうのをするつもりなのだろうか。どういう会話テクニックがいるのだろう?ナンパはしたことないな・・・。今日ナンパするのかな・・・僕にできるかなあ。


「ミイロミューンみんなを守って・・・」祈るようなポーズの星崎さんはなんか普通だな、歩く放送禁止用語って呼ばれてなかったっけ。青木君と今度こそ上手くいくといいな。


「さあ!みんな!いくわよ!泣いても笑っても今日勝たないと明日はないわ!」

オ―――!

みんなすごい気合だな、よっぽど都会がうれしいのか。まるで本当に戦う気みたいに見える・・そうそう対外的には一応ヤル気を見せておくのは重要だろう。サボってるとかクレームが来ると面倒だろうし。

偉いな・・・みんな真面目な振りをして準備運動している。昼には都会の街で遊べるんだろうか。どこに行こうか?新宿かな?浅草とかかな。


「おお!と、鳥井大雅とりいたいが先生ではありませんか?あいかわらずお美し・」

「あ!権藤先生。先生も引率ですか?」

「いやあ、はっはっは。3高から4チームも出場するものでコーチ陣も大変です。鳥井先生はお一人なんですね?」

「お互いがんばりましょ!うちの子たちは負けませんよ!」

「・・・ええ?そうですね、善処しましょう。つきましては後で少しお茶でも・・・」

3高の権藤先生が頭をかきながら突然やってきて・・・ん?・・・突然去っていった。


「あらじんめちゃん気にしてくれたのぉ?」「権藤先生は要注意ですから」

「要注意って大丈夫ですよ、なあに?心配なの?権藤先生とは何もありませんからね。先生はじんめちゃん一筋ひとすじですから・・・ね?」「?」


「キエ―――!全員っ戦闘準備ぃ!!我々は我々の道を指し示す!そのために来たのである!」

おお?アフロが燃えているフリをしている、はたから見れば騙されるだろうな。


全国大会出れるなんて凄い・・・それもこんな問題だらけのメンバーで出場できるなんて感動ものだ。

ああ楽しみだ・・・さっさと全試合を負けて東京観光へ行こう。

タイガーセンセもアフロもダークアリスも・・・星崎さんまで・・・いや全員か・・・なにやらさらに本当に熱い気配の高まりを感じる・・・これは強い期待とヤル気の表れだ・・・そりゃそうだ、東京観光だもの・・・。


よし!まず浅草だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る