年の瀬、二人、ワンルームにて
物書未満
何でもない特別な日
12月31日、所謂大晦日だ。僕はある人と待ち合わせをしている。確か11時に集合だった筈だ。そろそろ来る頃だが……
「はぁ、はぁ。ごめん! ゲーム機とパソコン用意してたら遅くなっちゃって……」
「はは、何時も通りそそっかしいな、別所さんは」
「あはは……」
彼女は「別所 実莉奈」(べっしょ みりな)23歳、同じゲームサークルのメンバーだ。
「とりあえず買い物に行こっか」
「うん! そうしよう! 今日は一河くんの家でゲーム三昧!」
「年の瀬なのに何時もと変わらないね……」
「年の瀬だからだよ! 年の瀬に家に籠もってゲーム、これは特別だよ!」
「あはは、敵わないなぁ。でも一理あるか」
全く風情もなにもない。だけどそれで良い気もする。
あ、僕は「一河 流斗」(いちかわ りゅうと)24歳だ。
そして、今日の買い物は所謂ショッピングではなく「買い出し」で、家に帰ったら外に出なくて良いように買い込んでおく為である。
「今日はどんな料理作ってくれるの?」
「まぁ、寒いからメインは鍋だね」
「ふむふむ」
私、別所実莉奈は一河くんの家にお邪魔しては毎回ご飯をご馳走してもらってる。今日だってそれは変わらない。
ご飯を作ろうとしても一河くんに止められてしまうんだ。
「私も何か作ろうかな?」
「え……それは止めといた方が……爆発しても知らないよ?」
「ぐ、きゅうしょにこうかバツグンの言葉だよ……」
そう、一回私はやらかしている。レンジで卵を殻付きで温めたせいで本当に爆発させてしまった。しかも一河くんのレンジを、だ。
「あの時は本当にごめん!」
「はは、仕方ないよ。よくある事らしいし」
「優しさが逆に痛いよー」
別所さんの料理下手はよく分かっているつもりだ。レンジで卵が爆発したのを生で見られたのはある意味ラッキーといえる。
ただ、爆発の影響でレンジがお釈迦になったのは想定外だったが。
「まさかレンジがアレで壊れるとはねー別所さんは触れた物を爆弾にする能力でもあるのかな」
「私にタッチして、『つかまえた』って言えば解除されるよ?」
「それで爆発しなくなったらどれだけ良い事だか」
「むむむ……でも本当にごめん。あ、スーパー着いたね」
別所さんの言うとおり近所のスーパーに着いた。さて食材とお菓子とジュース、それからお酒も買うとしよう。
「年末だからか色々と出来合いの物も上等そうな物があるなー」
「確かに見た目は良いけどおせちとか苦手なんだよね……」
「そう言えばそうだった。別所さんはどっちかって言うと子供舌だもんね」
「そういう一河くんはジジ臭いのが好みでしょ?」
「なんだか貶された気がする……」
僕と別所さんは食べ物の好き嫌いが分かれる傾向にある。というか別所さんは子供舌だからジジ臭い料理が苦手なだけで僕は別に好き嫌いはあまりない。
「でもその舌のお陰で料理が美味しいのは有り難い!」
「料理と関係あるのかな、それ」
「あるある! 大アリだよ!」
そんな話をしている内に一河くんは必要な食材をスイスイと選んでカゴに入れて行く。動きが淀みなさすぎて主婦か主夫のソレだ。私にはマネ出来ない。
「食材はこれでOKか。後はお菓子とジュース、それにお酒だね」
「! お菓子選びなら任せて!」
「こればかりは別所さんの領分だから任せるよ、僕が選ぶと偏るからね」
「よーし、実莉奈、行きまーす」
ロボットアニメの主人公みたいな事を言ってお菓子を選ぶ。ポテチ系は外せないし、甘いお菓子も必要だ。こんな時にお菓子を選ぶ時、大体の人は偏ってしまう。
だが、それは満足度を下げる原因になる。偏ると他の系統が欲しくなり、結果としてまた買い物に行く事なったら意味がない。
家に籠もってゲーム三昧ならそういうロスは省きたい。というより寒いから外に出たくない。
「よしよし、ここはそれなりに種類があるから選びやすくていいね」
さてさて、満足度を高めるお菓子選びといきましょうか!
……これくらいやらないと流石に一河くんに悪いよねー
「ふーむ、酒はどうするかな……ビールはまぁ僕が飲みたいから確定として……」
別所さんにお菓子選びを任せている間、僕はお酒を選びだ。僕はよく飲む方だが別所さんはそこまで多くは飲めない。だがお酒が嫌いな訳ではないから飲みやすく、度数の高すぎない物を選ぶ。必要とあればシェーカーも振る。
「あ、氷も買わないと」
シェーカー振る時と、ロックで飲む時に氷は絶対に必要だ。
そうだ、年末だしワインも買っておこう。
「んー、スパークリングの甘口で大丈夫だろ。乾杯はこれでいいか」
お酒も見繕った。さて合流するか。
「お、首尾は上々だったみたいだね」
「これなら大丈夫! 家から出る必要はないと言っていいね」
「毎回自信たっぷりだよね。まぁ事実だからすごいけど」
「これしかないからねー」
お菓子選びくらいしか出来ないけど、褒めて貰えるとやっぱり嬉しい。選んだ甲斐もあったって感じかな。
「あ、お酒選んでくれたんだ」
「何時もとあんまり変わらないけどね」
「一河くんのチョイスは外れないから安心出来るよ」
私はお酒にあんまり強くない。でも一河くんはそれを踏まえた上で選んでくれるから安心して飲めるし、飲みすぎかけたら止めてくれるのも助かる。
お酒には嫌な思い出もあるから……
「? 会計いこうか」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「そっか」
「それより早く会計して帰ろうよ!」
「そうだね、ゲームの時間も惜しいし」
会計を済ませて、一河くんの家に向かう。実は一河くんの家にお邪魔する時は大体こんな感じで始まる。だからある意味いつもと変わらない。
「昼だって言うのに今日は寒いなー」
「天気予報だと最低気温は氷点下になるみたい……」
「それなら一層家から出たくないね」
「同感。でも寒くなくても家から出ないよ」
「確かになー」
夏でも冬でも別所さんとゲームで集まる時は基本的に家から丸一日出ない。別所さんがそうしたいからっていうのもあるけど、僕自身もあまり外に出る気はない。
「お、家に着いた、鍵開けてっと」
「お邪魔しまーす!」
「あはは、いつも通りだ」
別所さんは最近になって家に入る事に遠慮がない。無作法な訳ではないから良いが。
それが証拠に靴は綺麗に並んでいる。根は育ちがいいのだろう。
「わーい」
「早速ゴロゴロしてる……」
「リラックスして、って言ってくれたのは一河くんだからねー」
一河くんの家に来ると不思議とリラックス出来る。他の友達の家にいっても落ち着かないのにね。実家以上に落ち着けるのも変わってる。
「料理するから別所さんはゲームの準備しててー」
「はーい」
まだ昼だけど夜に手間がかからないように一河くんは仕込みをしている。私には真似できないし、手伝いも出来ないけど一河くんは何も言わずにやってくれる。
趣味だからとか得意だからって言って気を使わせない様にしてくれてるけどやっぱり凄いや。
だからパソコンのセットはしっかりやる!
「セットアップと最適化終わったよ! ゲームのアップデートも始めたから一時間くらいでおわるかな?」
「ありがとう! アップデートあるの忘れてたよ、助かった」
「ゲームのモニターもちゃんと繋がったから大丈夫!」
これくらいちゃんとやらないとね。それにセットアップが上手く行ってなくてゲームが途切れるなんて嫌だからより気を使うかな。
「よし、下ごしらえ終わり!」
「こっちもOK!」
「じゃあ、始めるか!」
二人してネトゲにログインする。このゲームは所謂ハンティングアクションだ。
僕は「リュート」って名前で大剣士やってる。見た目には似つかわしくないけどゲームの中でくらいデカイ武器を振り回したい。
私は「ミリナ」って名前でガンナーをしてる。弾幕って良いよね! 快感だと思うんだけどゲームサークルの皆から誤射し過ぎって言われるんだ。一河くんはそんな事無いって言うんだけど。
「よし!」
「いこっか!」
さぁ!
さぁ!
「「ログイン!」」
……
――――
――――――――
8時間没頭した。やはり別所さんとのゲームは白熱するし楽しい。
やっぱり一河くんとのゲームは楽しい!
時間なんか忘れてしまう。
((だけど、今日この日は……))
「なぁ、別所さん……」
「あの、一河くん……」
同じタイミングだった
同じタイミングだね
「なぁ? 初詣行かないか?」
「ねぇ? 初詣行こっか?」
二人して同じ事をいった。
「じゃあ、いこっか」
二人して同じ返事をした。
「じゃあ、夕ご飯食べからにしようか?」
二人して同じ言葉が出た。
ちょっと早めだけど二人に初詣に行こう。ご飯を食べてから。
「「なんか、デートみたいだね……」」
こんなに近かったけど、だからこそ言えなかった。でも、年の瀬なら言える。
年の終わりに、初めてのデート。それは特別だよね。
大切な
大切な
一日だ。
新たな関係、新たな絆。
でも
僕達
私達
なら
特別だけど特別じゃない。
いつもだけどいつもじゃない。
本当に何でもない日だ。
でも特別な日だ!
僕達には
私達には
特別に日になった!
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