📖ロマンチストな殺人犯と 銃火器を扱う少女で 『全てが終わってから、あなたに貰った花の意味を知る』






 それはまるで棺のようだった。至るところに箱詰めされた少女たち。腐らないよう薬品が使われているのだろう、皆実に綺麗だ。永遠に眠る彼女たちを埋め尽くす花だけ新鮮な生の香りを放っていて妙だ。わざわざ毎日花を取り替えているのだろうか。


「酔狂ね」


 冷めた目で見下ろす。背中に担いだ厳つい火焔砲炙機バーナーが似合う自分とは対極的。一瞬でも綺麗だなどと口に出して言いそうだった分冷たい言いぐさとなった。


「そりゃねえぜ。俺はこれでも愛情深い人間なんだ。死後も美しく愛される。大事なことだろ?」


 現れた白衣の男はそんなことを宣った。


「こんなたくさん愛人をかこって、あなたの愛は随分大安売りなのね?」


「違う違う。俺が心から愛しているのはただ一人だけ。だが何度も何度もこの手で殺めてしまっただろ。だから今度はもうてめぇを殺したりしないよう代理をたてたらこうなっただけのこと」


「意味不明。どちらにしても最低ね」


「違いねえ」


 犯罪者が自分の罪を他者と共有する気分はどんなだろ。目の前の男はまったく悪びれる様子もない。それどころか罪がバレてもどこか嬉しそうにしている。


「可哀想に。やりたいこともたくさんあっただろうに。せめて私があなたたちを自由にしてあげる」


「おいおい。せっかく永遠の美で飾ってやってんのにまさかそれで焼いちまう気かよ」


「どっちがいいかなんて、本当はわからないけれど。仕方ないでしょう? 本人たちの希望を確認しようにもあなたが殺してしまったから答えがきけない」


「そんなことより。死んじまったやつらより、まだ生きてる俺やてめぇの話をしようぜ?」


「私が勝ったらあなたは消し炭、あなたが勝ったら私も彼女たちの仲間入り?」


「ぶー。全然大ハズレだな。人の話はよく聴くこった」


 足許に一輪。投げ捨てられた花。


「?」


 嗅いだことのない香りがした。視界が、二重にぶれて定まらない。


「っ……!?」


 膝から崩れ落ちそうになるのを、一瞬だけこらえた。しかし意識や気合いでどうにかなる程度のものではない暴力的な強制終了、脳の制御が完全に乗っ取られたとしか言い様がない。ああ、終わったな。真っ暗に消え行く視界の中、耳許で男の声がした。


「てめぇが死んだら意味ねえって話だ」



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