第2話

 スペンサーが街を歩いていると青年が近付いてきた。

 青年はスペンサーを撫でて、「可愛い。」と言った。

 スペンサーは嬉しくて言ってやった。

「当然よ!」

 青年はスペンサーを抱き上げる。

 そして、スペンサーを飼うことにした。

 知らない部屋に連れてこられて、スペンサーは不安になった。

 此処は何処なのか。

 わからない。

 知らない匂い。

 だけど、どこか探していた匂いと似ているような…?

「スペンサー・ヒンメル、君の名前だ。」

 青年は言う。

 スペンサーは首を傾げた。

「それがどうしたの?」

 スペンサーは青年があのご主人様の息子だと知らなかった。

 青年も、この黒猫が父親の飼い猫だったなんて知らなかったのだ。

 スペンサーを撫でる手が、暖かくてご主人様のようだと思った。

 いつの間にか、スペンサーは青年の飼い猫になっていた。

 青年は作られた猫よりも、スペンサーを可愛いがって、美しい猫だと言った。

 スペンサーは当たり前が帰ってきたようで嬉しかった。

 青年の部屋には、テレビも、漫画も、本というものも、なかった。

 あるのは、スペンサーを撮った写真と、カメラというものと、机と椅子、そしてベッドだけ。

 スペンサーは言った。

「私は、どんな作られた猫よりも素敵な猫なのよ!」

 青年は笑顔でスペンサーを撫でた。

「どんな猫よりも、素敵な猫だ。」

 それが永遠に続くことはなかった。

 青年の前から、スペンサーは姿を消した。

 死期を悟ったスペンサーは、街を通り過ぎて、一匹で、こっそりと、息を失った。

 青年は街を歩く。

 スペンサー・ヒンメルというどんな猫よりも素敵な黒猫を探して。

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