読むなら背後を確認したまえよ

 
 まず三話、読ませていただきました。
 ながくはなりますがご了承ください。

 感想から述べさせていただくと、同人業界の隆盛を祈る、である。
 以下は私の感じた話ですので面倒であれば読み飛ばしてください。

 
 悪役令状に転生した18禁作家は破滅を回避するために奮闘する。タイトルでオッたまげた。大丈夫だろうか。いや、ジャンルの好嫌は別段なく、勿論どの方面でも評価すると決めたからにはしっかり三話分読んできちんと感想を述べる気概である。私は逃げない。
 本篇の評定に行く前にカクヨム様のホームページからこの物語に入った途端、協調された字体で
 「読み終わったあと 何も残らない くだらなさ」という文字がしめやかに並んでいる。小さい作者名の味が良すぎる。なんだこれは。プロフェッショナル~仕事の流儀~か?
 何も残らぬ、とは言い過ぎだろう。鶏ですら髄まで喰らっても少量の骨と足が残る。残らない、なんてことはない。読み終え消化した時、かならず小説というのは後味が残るものだ。無く感じるなら、感じるまで舌の上で転がせばいい。文を読み、内容をよくかみ砕き、反芻して思いにふけるのが小説ならではの楽しみ方であると私は思う。以下、一話ごとの感想である。



 上・前世を思い出して
 女性がそういった、情交を主にして描く作品はとても増えてきた。昔は大体背景で変態的な紳士が己の心底に燻ぶる無尽な精神を燃やす、熱意の吐露が許される壇上のような風があったr18同人業界だが、女性の参入によって幾分かフローラルな雰囲気が漂い始めたともいえる。あくまで個人的な感覚である。
 主人公は26の若さで巨万の富を描き、生涯を遊んで暮らせるほどの財産を得たそうな。これはかなりの業績である。同人業界とは、血眼になって売れ筋の間隙を突き、つま先ほどに開いた僅かな隙間をコジ開けてようやっと名前が売れだしても、表立ったメジャー作家とは違い手元に入る報酬は微々たるもの。作家の類は手にタコを作り努力をして報われれば一攫千金も夢じゃない、という一方、どうしても同人業界に居を置くとタコが擦り切れて元から出血し、腱鞘炎を患った腕を鞭打って動かしても運が絡まねば満足な褒賞がもらえないものというのが個人の想像である。表と裏、分け隔てるのは各種業界に棲み分ける方々に無礼ではあるが、やはりこの感覚はぬぐえない。
 さて、莫大な才能を誇る彼女が、国宝が、その天才が、26という若さでこの世を去った。才能あるものほどその死は早く、そして侘しい。私もアヴィーチーが亡くなったと知らされたとき、本当に呆然とした。あってよいものじゃない。天才は私のようなド底辺の魂を吸って長く生きてくれとも思う。
 転生先は乙女ゲームの世界である。前世の記憶がよみがえった彼女はその知識をもってこれより迫る危機を掻い潜るのだ。
 前世の記憶が記憶だけに危ない雰囲気が出てきた。その知識は発散してよいものか。



 中・卒業式の断罪激
 トんだ。まじで。話の進行は婚約者の男性から始まる。
 彼は大好きな人がいた。とても気に入り、元からいる婚約者など邪魔者でしかないとまで断言した。男性諸賢、守ると決めた相手がいるからには根元から強靭になる不思議な生態である。意中の女性を愛し、臥所を共にしたその翌日、青年は立派な男へと変わり、その後の頼りがいが違うと来た。「男児三日会わざれば刮目せよ」とは、このことだろう。三日でいい。その短さで、男は変わる。
 さりとて、この男が守るとするべきは浮気相手ではなく、婚約者だろう。「婚約者」である。加えて男は王子である。国の行く末に大分かかわる内容であり、ともすればこの二人の関係は国総ての根っこに直結するほどの揺らいでは成らないものだろう。このような泥水の如くに不純で薄汚れている浮気恋愛譚の主軸に在っていい存在じゃない。浮気がばれれば沽券にかかわるぞ大丈夫か王子。
 彼が相対するは愛するべきであった婚約者、主人公である。もとよりこの女を愛することが出来たなら、皇子も安泰だったろう。目先の女に心を捕らわれて破滅の道筋をあるいていくんというのも、男児らしい哀愁かもしれない。

 王子がまくしたてたその直後に降りかかるは、前世の知識をもって王子に赤恥をかかせようとする、主人公の勇士だった。いや勇士と言いたくない。例えば私がこの場所に居合わせたならさっさと退出する。いや、やっぱ聞き耳を立てるかもしれない。気にはなる。
 おそらくは両者、絢爛たる装いだろう。何と言えども王子と妃になる未来を持つ令嬢である。「さあ、卒業式も終わりました。私たちの明るい行く末を共に語らいましょう」「ああそうとも。僕たちは永遠に愛し合った、青い鳥になるのだ」向かい合った美男女のくちからは、そういったルーブルでほほえましい会話が聞けると思うものだろう。
 そんなことはなかった。現代日本でも聞けるはずがない恥辱の数々である。貧民が到底食えぬだろう上級な肉を食らっていたその唇で、厳選された果実を用い、王宮の沽券にそぐわぬよう造られた、高級なワインを頂いたであろうその喉で以て、治安がすこぶる悪いといわれる大阪西成でも聞けないようなド底辺の破廉恥痴喧嘩が始まった。ギャラリーまでいる。私なら亡命するこんな国。

 というか女性がこうまでして口汚く汚い行為の数々を吐き捨てるというのも、ちょっと需要があるのかとおもった。いや、そんなはずはない。あってはならないし、許さない。
 

 下・そして……
 事件から時間が経ち、主人公は安寧の日々を送れているそうでひとまず安心といったところである。王子にやりすぎたかな、などという懸念はいらない。馬鹿な男というのは、いったんお灸を据えてやらねばらない時がくる。苦渋を経て、一人前になれるのだ。
 その後彼女には来訪者が続々とくる。よくできた青年、明らかにスケベな令嬢、無垢そうなヒロイン。彼女は前世の記憶を手に入れた今、漫画という道でこの世界を生き残ろうと決める。なるほどそれは前世から引き継いだ才能。彼女の存在を特別たら占めた、彼女の縋るべきよすがだったのだろう。



 統括したい。二話がやばい。多分絞ればそういうジャンルの作品何本いけるんじゃなかろうか。最初は良かった、キスまでは良い。よくある過程だが続く話が割かしアブノーマルすぎる。拝読させていただきながら何度か背後を確認した。せずにたまるか。
 良くも悪くも、くだらないというご学友の感想は儘かもしれないが、何も残らないというのは私は否定したい。何かしらが残る。めちゃくちゃ例えは悪いけれど、廃油を捨てる直前の油粕みたいな。
 正直、一献酒を入れた。がために口は悪いし、作品のノリを見て信頼してるがゆえにこうまでしたふざけた評定を続けているが、しかしなんとも、楽しそうに物語を執筆しているという風は感じ取った。楽しくて仕方がなかったろう。あの暴露の時は。

 感想は先述の通り、同人業界の隆盛を祈る、である。褒章が少ない分、この手の業界の方々は、少ない財政でも実に心血削いで作品を作ってくれている。また個人事業主というか、企業に属さずに物を作るという、所謂営利目的ではなく、己の趣がためだけにひたむきに作品と向き合う方々が大多数なのだ。
 ちょっと話がずれたので閑話休題とさせていただくが、なるほど、ちょっと文章は拙いのかもしれないが、こうすれば面白い、意外だろう、という作者の心意気のようなものが感じられた。機械的につくるより、こういった作者自身が楽しくつくるというのが何よりも健全な作品なのかもしれないと思った。

 大変楽しく拝読させていただきました。
 今後の健闘をお祈り申し上げます。