悪役令嬢に転生した18禁同人誌作家は破滅を回避するために奮闘する

神泉灯

一章・事の発端

上・前世を思い出して

 その日の朝、わたしは突然 日本で同人誌作家をしていた、前世の記憶を思い出した。

 ちなみにその同人誌のジャンルは、男性向け18禁アダルトオンリー。

 要するにエロマンガだ。

 ソフトなものからハードなものに至るまで、幅広く描いていた。

 でも わたしは女だったりする。

 元々 わたしは、一般向けのマンガ家志望だったけど、どこに応募しても一次選考にも引っかからなかった。

 そんなある日、ふと思いつきで、童貞オタクの兄が所持していた、18禁同人誌やエロゲーなどを見せて貰い、童貞オタクの性に対する歪んだ願望と空想と希望と妄想と欲望を私は研究し、それをマンガに描き上げ、同人誌即売会で販売した結果、見事完売した。

 その稼ぎに気を良くした わたしは、次々と童貞オタクの歪んだ願望と空想と希望と妄想と欲望を描き出し、それらは全て完売が続き、五年もすると、わたしは同人誌の収入だけで、一生遊んで暮らせるほどの金を稼ぐことに成功した。

 でも、その金をほとんど使うことなく、私は二十六歳の若さで、交通事故で死んでしまった。

 死んでしまったものは仕方がない。

 まあ、そういう事もあるよね、と諦めるしかないだろう。

 


 そして現在の わたしは、中世ファンタジーな世界の公爵令嬢である。

 身分だけを考えるなら、生まれた時から勝ち組だ。

 おまけに わたしは王子の婚約者。

 将来は王子妃なわけだ。

 このまま問題なく王子と結婚すれば、私は安泰。

 一生 贅沢に遊んで暮らせる。

 そのはずだった。

 だけど それは、問題がなければの話で、その問題が起きている。

 婚約者の王子は、わたしとは別の女と交際している。

 そして今日は、わたしが断罪され、婚約破棄される日なのだ。



 話が飛んだので、大まかながら順番に説明しよう。

 まず、この世界は乙女ゲームの世界らしい。

 国王陛下や王妃に王子、他の実在する人物の名前や、地名、施設名などが、全て前世でプレイした乙女ゲームと一致したことから、この世界が乙女ゲームの世界だと気付いた。

 王立学園に入学したヒロインは、同級生の王子や他の攻略対象と恋愛関係となり、そして愛を育み、卒業式にはハッピーエンド。

 その卒業式が今日なのだ。

 だが、わたしはヒロインではない。

 まずいことに悪役令嬢だ。

 乙女ゲームによくいる、ヒロインたちの恋の障害として、物語を大いに盛り上げる悪役令嬢。

 王子の婚約者という地位を守るために、ヒロインの恋路を邪魔し続け、そして卒業式に断罪され、婚約破棄される。

 その後、悪役令嬢は王子の愛する女性をいじめたという理由で、修道院に強制的に入れられ、それまでの生活から一変した過酷な生活環境に耐えられず、流行り病を患い早死にする。

 その悪役令嬢が わたしだ。



 どうしよう?

 なんで 断罪されて婚約破棄される日の朝に、いきなり前世の記憶を思い出すのよ。

 これがもっと前だったら 対策も立てられたし、そもそもヒロインと王子の恋路を邪魔しようだなんてことしなかったのに。

 マジでどうする?

 つんだ?

 このまま修道院送りになって、病気で死ぬの?

 今世も早死にすることになるの?

 そんなの嫌。

 そんなの絶対に嫌だ

 考えないと。

 なにか方法を考えるのよ。

 この状況を打破し覆す方法。

 生半可な方法じゃダメだ。

 歴史的な軍師が閃く様な奇策じゃないと。



 っていうか、そもそも王子が悪いんじゃない。

 わたしだって政略的な婚約だってことくらい分かってたから、それでも少しでも良い関係を築こうと、色々努力してきたのに。

 でも、お茶や食事に誘っても冷たい目で断るし、お菓子とかお弁当とか作って渡しても、それ全部ゴミ箱に捨てるし。

 婚約者になった程度で良い気になるな、なんてまで言うし。

 そんなに嫌だったら最初っから婚約しなければいいでしょ。

 わたしに拒否権なんてないんだから。

 でも 王子は違う。

 婚約者候補が三十人以上いて、その中から自由に選べたんだから。

 しかも 後になって一方的に破棄する事もできる。

 そんな王子の権限を使って わたしを断罪するなんて。

 だいたい、婚約者がいるのに他の女の子と付き合うなんて、それって完全に浮気じゃない。

 その事を確かめようとすると、疑り深いとか嫉妬深いとか言って、質問をはぐらかすし。

 ならヒロインに聞こうとすれば、彼女をいじめるな、とか皆に聞こえるように大声で叫ぶし。



 それに わたし、ヒロインをいじめてないよね。

 ヒロインは平民だから、貴族とかへの礼儀作法の事をよく知らなくて、それで少し注意したり、基本的な事を教えようとしたりしただけで。

 でも、王子は わたしがヒロインに話しかけただけで、私がヒロインをいじめているって決めつけた。

 それだけじゃない。

 鞄を隠されたとか、バケツで水をかけられたとか、靴に画びょうを仕込まれたとか、ヒロインは色々されてたらしいけど、わたしはまったく関係していない。

 友人にも わたしは言っておいた。

 ヒロインは王子と親しくしているために、他の女生徒から悪く思われている。

 だから、なるべく助けるようにしようって。

 でも、ヒロインへのいじめは、噂では全部 わたしが首謀者ってことになっていて。

 というより、王子が わたしを犯人だと決めつけている。

 みんな わたしがヒロインへのいじめの主犯格だと思っているのは、王子がそう言っているからじゃない。



 なんか、だんだん腹が立ってきた。

 諸悪の根源は王子じゃないのよ。

 ヒロインは普通の子だ。

 王子に優しく声をかけられて、少し舞い上がっているだけだと思う。

 それをいいことに 王子はヒロインを虜にし、わたしをダシに使って自分のものにしようとしている。

 許せない。

 そんなの許しちゃダメよ。

 わたしは断罪なんかされない。

 わたしが王子を断罪する。

 そしてヒロインを助けるのよ。



 そうか。

 わたしがこの日に、前世の記憶を思い出したのは、そのためなんだ。

 王子を断罪し、ヒロインを助けるため、神か誰かが思い出させたんだ。

 そう、わたしには前世の知識がある。

 一生遊んで暮らせるほどの金を稼ぐ事ができた知識が。

 この状況を逆転する策が閃いた。

 起死回生の策が。

 さあ! 18禁同人誌作家の知識を駆使するのよ!

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