第31話 外堀を埋める

 それから一週間後。


「家康と和睦するぞっ!!」


「お待ちください淀君様!!」


「たわけ幸村っ!!貴様にはあの大砲の音が聞こえぬのかっ!!」


「怖いよマンマァマア~~~~!!」


「おおお~~可哀そうに秀頼この母が守ってやるからな?安心するがよい」


「く、これではいくら真田丸で家康の軍勢を食い止めたとしての元の木阿弥ではないか」


「つうか本当にこんな木製の大砲の弾撃つだけで勝てるとは思わなかった・・・」


「驚きか弥一?」


「これも史実なのか徐福?」


「淀君は大砲の音に驚いて家康から提示された不利な条件の和睦を丸呑みする。そしてそのまま豊臣家は滅亡する」


「朝飯、いや夕食になるのか?握飯を持ってきたぞ。食べてくれ弥一」


 お六がやって来た。


「大砲を撃つ役目を引き受けてくれてすまんな」


「あーなんか徐福が言うには昼夜問わず大砲撃たねぇと意味ねぇんだってさ」


「大砲は敵や城壁を吹き飛ばすものだと勘違いしている連中が非常に多いが、少し違う。最も効果的なのは今まで大砲を見ても聞いた事もない相手にその轟音を聞かせる事だ。その心理的影響は絶大だ。だから淀君も和平に乗って来るんだ」


 という徐福の詳細解説である。


「しかしこんだけ大砲をバカスカ撃ってりゃバルキリーが大挙して押し寄せて来そうなもんだが」


「そこでこいつだ」


 徐福は詳細な大阪城の地図を見せた。


「これを徳川方の砲兵全員に配ってある。こいつを使えば豊臣方の兵に一切『犠牲者を出さずに』大砲を撃ちづける事ができる。これなら『戦闘』じゃない。ただの訓練だからな。バルキリーは飛んで来ない。ギリギリまで敵陣に撃ち込む砲撃はやらない」


「しかし流石に大阪城に突入する時はバルキリーがすっ飛んで来るだろ?」


「そうならないよう一般兵にはバルキリーが襲ってこれない城の内部に速やかに突入できるよう、城の見取り図を頭に叩きこむよう命じてある。だが、それには」


 徐福は大阪城の手前にある物体を指し示す。


「この真田丸。こいつを速やかに攻略しなければならない。バルキリーの猛攻を耐えつつ。その先陣を切るのが」


「俺達って事か」


 *


「豊臣の息の根を止めるまであと一歩というところまで来たな」


 弥一達が持ってきた詳細した大阪城の地図を見ながら家康はこれから訪れるである徳川の治世に思いを馳せた。


「ところで政宗公」


「は、なんでありましょう家康殿」


「和睦の条件に大阪城の外堀を埋めるとあるが、お主がやれ」


「はっ。承知仕りました」


「その際同時に内堀も埋めよ。可能であれば突入用に城壁も破壊しろ」


「家康様?」


「断ると申すか?まさか秀吉によって朝鮮に送られ、多くの武士と共に見殺しにされかけたのを忘れたわけではあるまい?」


「いえ。左様な事は。堀の埋め立ての任。見事務めさせていただきます」


「いいな。しかと申しつけたぞ」


「申し上げます!!」


 一人の侍が天幕に駆けこんで来た。


「何事じゃ。言伝ならお六にでも」


「実は豊臣方に急な動きが!」


「何?申せ」


「それではそちらの地図でご説明いたしますが・・・」


 その時、政宗は気が付いた。


「家康様!そ奴から離れてください!」


「何?」


「遅いわ!!」


 男は素早く刀を引き抜くと家康に向けその白刃切っ先を差し込んだ。


「ぐ、ぼおっ!!!!」


「き、さまっ!!豊臣の刺客かっ!!!?」


「豊臣ぃいい?俺はそんな下ない連中の手先などではない」


 武士の姿が揺らめく。すると金色の髪。青い目。布を巻き付けた服を身にまとった南蛮人の服が現れる。


「南蛮人?貴様は一体っ??!!」


「ヨーロッパから来ているというのは認めよう。どうやらこの世界一の暗殺者、ブルータスの名声は世界の果ての島国にまですら届いているらしいな。だが、俺が貴様らの中までないとなぜわかった?気配遮断のスキルを使って人間に化けていたんだがなぁ?」


「今の家紋は小西行長の物!そして小西は西軍豊臣方!奴は関が原で死んでいるはずだ!!」


「フフフ、死人から適当な鎧兜を剥ぎ取ってくればバレないと思っていたがどうやらそうでもないようだ。今度からは生きている人間の鎧兜を盗んでくる事にしよう」


 そういうとブルータスは煙のように消えた。


「貴様は見逃してやろう。俺の目的は王を殺す事だ。庶民でも兵士でもない。王を殺す事だ・・・」



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