第30話 くっころ(和式)

 大阪城地下。

 一人の女武者が両手首を縛られ、天井から吊るされていた。


「如何なる拷問責苦も無意味だ。この六の口を割らせて、例え家康様の本陣の場所を吐かせようなどと考えても無理難題というのも。さぁ首を切るがよい!!」


 その女武者、お六が捕えられた牢の前には豪奢な着物を着た女と、酷く痩せた侍がいた。


「くははは!そうはいくか!お前には我が子、秀頼の子を産んでもらうぞ!!」


「ねぇマァマァ~~~ボクもう少し大人しくて上品そうな子がいいなぁ~~」


 ナヨナヨナヨナヨ~~~~。


「お~~~~秀頼!!よし~~~~よしよし~~~!!!太閤様の血を引く高貴なお前には斯様なガサツな女などに似合わぬ事などわかっておるぞ?しかし我慢しておくれ。豊臣の血を絶やさぬ為には傍女の百人や千人必要なのだ。何しろお前は次の太閤。日本の支配者なのだからな秀頼?」


「ねぇマママァ。ボクお腹すいちゃったよ。金平糖が食べたいよ~~」


「そうかそうか。金平糖が食べたいのか?」


 淀君は懐から金平糖の入った袋を取り出した。


「一個?ニッコ?」


「う、う~~。ふたっつ~~~」


 淀殿は金平糖を投げた。

 ぽいのぽいのぽいの!!


「お~~よしよし!三個も食べれるなんて食欲旺盛!立派な太閤になるぞ秀頼!!」


 淀君は秀頼を過剰なまでに撫でまわし。


「六とやら。貴様のしつけは家康のジジィとの決着がついた後しっかりつけてやる。さ、夜も遅い。母と寝ような秀頼?」


 地下牢には吊るされた女武者と見張りの兵が残された。


「中々いい女だな。ま、若太閤様の妾になるんじゃ悪戯もできねぇかへへぇ。せめてこうやって眼福でもさせてもらうかね?」


 番兵がそう言いつつしゃがみ込むと。


「う、ふっ・・・・!!」


 そのまま息を吐き出して意識を飛ばしてしまった。


「助けに来ましたよお六さん」


「お前は・・・っ!!?」


 姿を消した状態で地下牢に忍び込み、番兵を後ろから殴り飛ばしてカギを奪ったのは。


「誰だ?」


「あ、この時代の英雄になる前のお六さんとは初対面なのか。始めまして弥一です。伊達政宗さんの友達で、貴方を助けに来ました」


「政宗公配下の忍びか。助かる」


「ってか凄い格好ですね・・・」


「?何がだ?」


 牢に囚われていたお六は武器はもちろん取り上げられていた。それはまぁいい。(よくないが)なんと籠手と脛当てだけを身に着け、ガーターストッギングのランジェリー姿という井出達だったのである!!


「江戸時代になんでガーターランジェリーがあるんだ・・・」


「これか?これは南蛮の伴天連坊主共が家康様に送った品の一つだそうだ。私が敵将の首を取った記念に褒美として賜ったのだ」


「どんな褒美だそらああ!!!!」


「ともかくここから脱出しよう。武器を借りるぞ」


 と、言ってお六は弥一の股間に手を伸ばした。


「え?お六さんあんた何してんの?」


「だからその股に隠した小太刀を貸してくれ」


「い、いや!これは小太刀でなく使い捨てのロンギヌスの槍というか撃ったら終わりの種子島というか!!そ、そうだ!!そこに倒れている番兵がいるからそいつの刀使いなよ!!!」


「まぁそうだな。こいつの刀を奪って代わりに牢にぶちこんで、っと」


「よし。あと鎧を探そう」


「そんな暇はない。早く逃げるぞ弥一とやら」


「え?その恰好で?」


「何も問題はない。さぁ行くぞ」


 二人は地下牢から出て、城内の様子を伺う。


「このまま城門から脱出だな」


「いや。できれば馬が欲しい。と言ってもどこに馬小屋があるのかわからんしな。兵の配置もわからんけどのではどう逃げれば」


「あ、地図ありますよ?」


 弥一は地図を見せた。例のごとく中空に表示される半透明なスクリーン映像である。


「なんと!斯様な詳細な見取り図を!!うむ、これならば・・・ここが兵舎で馬屋がここか。ならば」


 お六は身軽な足どりで動き出した。まるで鎧など身に着けていないような軽快な動きだった。実際、身に着けていない。


「ちょっと!待ってくださいよ!!」


 もたつく弥一は思わず声を出してしまった。それを聞かれてしまったらしい。


「誰だ!!」


「しまった気づかれた!!」


 ここは大阪城の内部である。外壁内を警備していた兵士が近づいてくる。


「そこにいるのは何者だ。まさか家康の放った忍者・・・」


 その時、警備の足軽兵の背後から音もなく忍び寄る人影があった。お六である。

お六は足軽兵の首を絞め、一瞬で昏倒させる。


「えっと、この近くに井戸があるから・・・」


 っぽい。

 と、ぽーーーん。


「あの人死んでない?」


「やらなければ牢に逆戻りだ。運が良ければ生きている」


 馬屋に向かって移動すると。


「へへ。その女中がよぉ」


「今度紹介しろよ」


 談笑する足軽歩兵が二人。


「弥一。どちらか一人でいい。注意を引き付けてくれ」


「え?どうやって??」


「さっきと同じ方法でやれ」


 お六は夜闇に乗じ、物陰に隠れ、足軽兵に近づく。不思議と足音もない。そして背後に回り込んだ。


「や、やぁ。僕もその話に混ぜてくれないかな?」


「なんだ貴様は!!さては家康の手先かっ!!」


「左様。家康様の家臣の者だ」


 弥一の代わりにお六の方が名乗った。同時に一撃。


 デゲシ。


「うぐっ!!」


 足軽兵を縛って便所に放り込む。


「さて、馬を手に入れたぞ。弥一。お主馬術は得意か?」


「馬なんて全然乗れねぇーよ!!」


「ならば私の腰にしがみついておけ。並の男より騎乗は旨いと家康様から褒められているのだ」


「えっ?でもアンタ!ランジェリー姿っすよね?」


「いいから早くせい」


 弥一は潜入したその日、日付が変わる前に脱出する事に成功したのだった。

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