第3話 当日朝

 翌朝。夜闇に朝日が差し込む晴れ晴れしい気分の中、弥一は目を覚ました。


「おはよう弥一君。昨晩はお楽しみでしたね」


「ああ。この両手がコントローラーの感触を覚えているよ」


 弥一は両手をモミモミさせながら徐福に朝の挨拶を返す。だいたい大きさは眼鏡女の乳房をイメージする感じで空中でモミモミだ。


「そこの硝子扉を開けて外の空気を吸ってみたらどうだい?いい気分転換になると思うぞ」


 確かにそうかもしれない。弥一はそう考え、広いベランダと繋がる硝子扉に向かう。真っ白な、ベランダのある硝子扉へと。


「おっと!忠告しておくぞ!硝子扉を開けたら腕は出してもいい。だが脚は絶対に出すんじゃないぞ?いいな?絶対に足は出すなよ?脚は『一歩たりともベランダを分ではいけない』!!」


「あん?お前何言ってんだ?」


 弥一は右手でベランダのガラス扉を開けた。途端に爽やか空気が室内に流れ込む。すると。


 ?!


「ナニイイイイイイイイイイイ!!!俺の腕が半透明になったっだとおお!!!!???」


 その瞬間雀が一羽。弥一の腕を『すり抜け』た。そしてその雀は弥一の背中で旋回し、肩に止まり、そして再び飛び立ち、洋館の外へと飛び発っていく。


「お、俺の体がっ!まるでパイツァダストに失敗した吉良吉影の様になっているだとおぉうぅっ!!!??」


「硝子扉を閉めろ弥一。さもないとてめぇの魂がマジであの世まで吹っ飛ぶことになるぜ?」


 弥一は硝子扉を閉めた。


「ジョフク!俺は一体どんなスタンド攻撃を受けているんだ!!??」


「落ち着け弥一。こいつはスタンド攻撃じゃあないぜ。これはお前ら中高生が大好きな『シュレティンガーの猫』って奴さ」


「シュレティンガーの猫!!?そいつが敵スタンドの正体かっ??!!」


「それは忘れろ。シュレティンガーの猫はエルヴィン・シュレーディンガーによって提示された量子力学論の比喩で、毒ガスの入った箱に猫をぶち込む。その中の猫が生きているか死んでいるかどうかは箱を開けてみるまで判明していないという有名な屁理屈だぜ」


「だが、だがよぉジョフク。その箱。毒ガスが充満しているんだろ?猫は確実に死んでるぜ?」


「甘いな弥一。猫は猫でも四部モリオウ町に登場した猫草ならどうだ?毒ガスを空気分解して無害な窒素とリンに変えてしまうかもしれん」


「?!た、確かに!!そうなるとシュレティンガーの猫は『成立する』!!」


「そして弥一。お前は今まさにそのシュレティンガーの猫状態にある。即ちこの洋館にいる間、世界はお前を『生きている』と観測する。だが一歩でも洋館の外へと出た瞬間、この世界はお前を『死亡』したと確定するんだっ!!」


「なにいいぃ!!つまり俺はこの建物から出た瞬間に死んじまうって事かっ!!!」


「まぁお茶でも飲んで落ち着きなよ」


 ジョロジョウロ。


「ジョフク!お前何をしているんだ!!?」


「みてわかるだろう?弥一。テメェーの為にモーニングティーを煎れているのさ。茶葉を入れて、お湯は人間の舌が火傷しない程度。この温度のお湯を拳銃にかけても熱膨張で銃は暴発しねぇぜ?」


「そういうことをいってるんじゃああないっ!!なぜテーブルの上で普通に煎れない!!股を拡げて股間の間でティーポットからカップに注ぐんだっ!!!」


「ただの宴会芸だ。去年のクリスマスパーティの際眼鏡女の野郎がコーラの瓶を握っただけで蓋に触れずに栓抜く大道芸を披露して偉く評判だったんでね。俺も練習しているのさ」


 コトリ。ほかほか湯気の立つ紅茶を徐福はテーブルの上に置いた。


「さぁ飲めよ。遠慮するな」


「くっっ!!?」


「なんだよ。何か飲めない理由でもあるのか?それはこの洋館から無条件で出て行く。つまり遠慮なく死なせてくれという意思表示として俺は受け取っていいんだな?」


「わかった。呑んでやるぜっ!!」


 弥一は覚悟を決めた。湯気の立つ黄色い液体が波紋打つ!カップを手に取った!!


 クイッ!


「ほう?潔いな。で、味は?」


「普通の、レモンティーだぜっ!!」


「ただのダージリンだが。気に入って貰ってなによりだ。蛇足だが天照大神はキムーンが好みらしい」

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