第2話 一日前

「おはよう弥一。気分はどうかね」


 目を覚ました弥一はそこが自分の部屋でも学校の教室でもないことに気づいた。そこは洋館の一室で、書斎のような場所だった。弥一の背後にはおそらく廊下に繋がるであろう扉。右手には本棚。左手には硝子扉とそこに繋がるベランダがあり、そして正面には広い机。そして椅子に座った男性が鎮座していた。


「まずは自己紹介といこう。俺は徐福。君達日本人に文明を与えたものだ」


 洋物のコートを着て、眼鏡をした男性はそう名乗った。


「はっ?何言ってんだお前?」


「まぁそのような態度になるのも当然だろう。だから実例を見てもらった方が早い。そこの扉を出て、階段を降り、ここの丁度真下の部屋の人物を尋ねるといい」


「この部屋の真下の人物?」


 弥一は徐福と名乗る怪しげな人物に指示された場所に行ってみる事にした。部屋を出て、階段を下り、真下と思しき場所へ。木製の扉をゆっくりと開ける。そこは先ほどの部屋と何らそん色のない・・・


「うっ!なんだこれはっ・・・!!」


 その部屋は床一面のゴミ袋で満たされていた。壁の一部が発光している。音源からしてビデオゲームをプレイしているようだ。その手前に人影がある。どうやらこの部屋の持ち主らしい。


「だれ~~?ポテチかハンバーガーおいといて~。別にせんべぇでもかまわないよ」


 弥一は信じられない光景を目にした。この人物は自分の足で自分の頭の後ろをポリポリと掻いているのだ!!

 その人物は顔を三十度ほど向けて弥一を視認するとまたゲーム画面に向き、後ろを向いたままゲームのコントローラを投げてよこした。


「え?」


「対戦するよー。君男の子だよね?」


「そうだけど?」


「じゃあ君が勝ったら私と子作りする権利を進呈しよう」


「ハァ?!」


「でも私が勝ったらここから出て行かないからねぇ」


「え?」


 眼鏡の位置を直しながら勝手に彼女は話を進める。


「じゃあM=GIGAでもしようか」


「さすがに勝って合体というわけにもいかないし、とりあえず適当にゲームして適当なところで負けて終わりにするか」


 弥一はそんな気楽な気持ちでコントローラを握った。


「捜査は簡単。十字キーで車の移動。Aボタンでアクセル。Bでブレーキ。他に質問は?」


「ない。とっとと始めろ」


「んじゃ。レーススタート」


 眼鏡女はスタートボタンを押した。


<3>


 ガダダダダダダダダダアッダアダダダダッダ!!!!!

 眼鏡女は突如Aボタンを連打し始めた。

 というかなんか顔つきヤバくねこいつ?


「何!?まだゲームは始まっていないぞっ!!!?」


<2>


「ああこれ?スタート前にアクセルボタンを連打すると、ゲーム開始時にアクセルボタンを百回以上同時押したとしてコンピュータ内で処理され、高速加速スタートできるんだよ」


「なんだよそれはっ!!!?」


 ガダダダダダダダダダサッダアアダッダ!!!!!


<1>


「ちなみに実機にで再現可能な動きだから、チートじゃないよ?」


「嘘やっ!!!」


「だからチートじゃないって」


 ダダダダダガガガガガッガダダダアアダダ!!!!


<スタート>


 どひゅーーーーーん。


 一瞬で見えなくなる眼鏡女のレースカー。その遥か後方をとろとろと弥一の車は追いかけていく。


「これもうゲームの勝ち負け以前の問題じゃねぇかよ・・・」


「いやぁこの程度の基本テクニック知っている者とばかり思っていたよごめんごめん」


 だがある意味弥一は安心した。これなら勝負に勝ってしまう事もなさそうだ。


「んっ?なんだあれ?」


 急カーブの手前。眼鏡女の車が横転していた。


「なんだ事故ったのか。そりゃそうだな。あんな高速ですっ飛んでいけば事故もするさ」


 ギュリギュリギュリギュリギュリギュリ!!!


 眼鏡女がコントローラーを高速回転させ始めた。どうやら車を復帰させるつもりらしい。まもなくして横転した車が態勢を立て直し。


 ギュオン!!


「なにいい!!俺に向かってつこっんで逆走してきただと??!!!」


 アクセル全開で弥一の車に突っ込んでくる眼鏡女。


「くっ、回避を・・・」


 ギャギャガギャギャ!!!!


「逃がすと思うかっ!!」


「お、俺の避ける方向に向けてぶつかってきたあああああ!!!!」


 そして正面衝突。大きく吹き飛ばされる互いの車両。ゲームでなければ即死だった。後方から追従していた弥一の車両は横転させられ、眼鏡女の車両はカーブを越えてコースアウト。


『ゴール!!』


「ファッ!!」


「急加速と車両が衝突した弾みを利用したわ!カーブとカーブの位置関係でゴールまでショートカットできるのよ!これも実機で再現可能!!」


「インチキだ!チートだ!!ファー〇ェイだ!!!」


「だから人間が実機で再現可能な動きだからチートではないっ!!!」


 眼鏡女は次のゲームソフトを手に取った。


「さぁ、次はこの『グレェイト!ベースボールで私と勝負してもらおうかっ!!!』」


「どうだった?」


 徐福はすっかりやせ細り、白髪になった高校生に感想を聞いてみた。


「まるで一晩中女を抱いていたような面をしているな」


「一晩中女と部屋にいたのは認める。アンタが想像しているのはちょっと違う状況で」


「彼女は天照大御神(アマテラスオオミカミ)。お前が住んでいる日本を造ったとされる女神だ」


「ただのゲーオタ廃人に見えたが?」


「今から2000年くらい前になるか。彼女にスゴロク遊びを教えてな。その頃は天岩戸に引き篭もって配下の女神に無理やりスゴロクやらせて負けた女神を裸になるまで服を剥ぎ取るとかその程度のもんだった。それが今じゃあの有り様だ」


「つまり日本最古のヒキニート女って事か?」


「そうそう。彼女部屋に古いアーケードゲーム筐体があったろう?」


「なんかビニル袋に仕舞われてるのがあったな。あれもゴミだろ?」


「あれはアタリ社製のポンだ。世界で最初に製造されたゲームマシンと言われている」


「ほーん」


「捨て値でも百万。実際にはオークションに出すからその百倍以上の値段になるな」


「ちょっと休憩してから、俺アイツともう一回ゲームしてくるよ」


「彼女と友達になりたいのか?」


「もちろん」


「では、せめてドラゴンウォリアー2のFC版をクリアーしたまえ。それが最低条件だ」


「それって大変なのか?」


「ドラゴンウォリアーは傑作人気コンピュータRPGシリーズだが、FC版の2は開発期間の関係でラストダンジョン以降のゲームバランスがおかしいのだ」


「どれくらい大変なんだ?」


「通常マップの雑魚が即死魔法連発してきたりとかラスボスが全回復魔法使用したりとかする程度の優しいゲームだよ」


「地獄だな・・・」

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