第17話 花々を癒そう

「ほら。お前の部屋の鍵だ。なくすんじゃないぞ」


「気を付けます」


「そうしてくれ。あと明日は朝食を食べてから出発だ。朝食は日の出ぐらいから出してもらえるだろうから食べにいくとき一声かけてくれ。一緒に食べよう」


「そうだな、メシは仲間と一緒に食うとうめぇからな!」


「分かりました!」



 そうして別れたわたしは自室に荷物を置くとともに足早に部屋の外へと出た。


 何せ、ここは絵本でしか見たことの無い大きなお屋敷だ。初めて見る人々に見ているだけでなんだかわくわくする調度品。ところどころに未知がいっぱいな場所だ。これは見て回らねば勿体ない!


 そんなわけで早速ここ2階を探索することにした。


 だけど延々と続く廊下はほとんど変わり映えなく、同じ扉がずらりと並び、やたらと長く同じ柄の焦げ茶な敷物が続く光景に思いの他すぐに飽きてしまった。


 せいぜい変化と言えば扉に張られた金属プレートに刻印された部屋番号、等間隔に置かれた花瓶に生けられた花の種類が違うくらいだ。


 そして時折その中に紛れている枯れたかけた花を見つける度、癖で植物用の回復魔法をかけてしまう。ある意味、職業病とも言えるかもしれない。


 森で暮らしていた頃、植物素材が痛まないようによく使ってきた魔法だ。


 素材を採取したときや少し遠くまで遠征したときは要所要所でこの魔法を掛けるようにすると鮮度を回復できる便利な魔法だ。もちろん枯れた植物にだって効果はある。だから素材を採取したときは必ず使うようにしているのだ。


 だからいつもの癖で魔法を使ってしまった。別に悪いことでもないから気にしてなかったけど、実は他の人からすれば問題だったらしい。



 「な、なんなの今の!?」


 「回復魔法です!」



 いつの間にか後ろに一人の少女が居たのだ。そしてわたしの魔法を見るなり、驚愕の表情でわたしと花瓶を視界に収めていた。


 何を驚いているのか分からないけど、何なのと聞かれたから素直に答えると、少女は信じられないものを見る目でわたしを見つめる。



 「今のは明らかに魔法だわ……神術じゃなくて魔法だったわ……」


 「神術?」


 「そうよ。神術とは徳の高い人間が神から与える神の術よ。だけど習得方法は教会が秘匿しているから教会関係者しか使えない秘術よ。だけどあなたはどう見ても神官にも僧侶にも見えないしそもそも今のは魔力を消費した術だったわ。もしかしたらお母様を救えるかもしれない……」


 「お母様?」


 「ううん。なんでもないわ。それより名乗りもせずごめんなさい。わたしはルクミラルシェンというの。あなたは?」


 「わたしはアスピです」


 「そう、アスピって言うのね。革鎧に木杖に鉈? 護身用と考えれば……もしかしてアスピって魔法使いタイプの冒険者かしら?」


 「違います。錬金術師です!」


 「錬金術師……え? 錬金術師? 錬金術師が武装する必要なんてあるの・・・?」


 「え、だって――――」


 「待って! わたしに考えさせて。これも勉強だから!」


 「・・・?」



 どうやら良く分からない面倒くさい人と出会ってしまったようだ――――

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