第16話 宿主と話そう

 受付カウンターは1つしかないのか、そこには地味に長い行列ができていた。


 だがその列は受付の青年によって次々と捌かれていき、あっという間にわたしたちの番が来た。



「やぁガジェド君にボルド君、久しぶり」


「おぅ」


「久しぶりだな!」



 ガジェドさんたちと青年は知り合いなのか、親し気にあいさつを交わす。だがその直後、青年は心底残念そうに眉を曲げながらガジェドさんに言い放つ。



 「はぁ。それにしても僕は残念だよ。まさか君にそんな趣味があったとは」


 「はぁ?」


 「まさか君が少女趣味だったなんて……」


 「おい、やめろ」


 「ああ、俺もガジェドがこのを連れてきたときはマジかと思ったぜ」


 「ボルドまで悪乗りしやがって……」


 「ははは、ほんの冗談だよ。君は相変わらずだね。少しは治ったと思ったんだけどその様子だと全然って感じかな」


 「余計なお世話だ」


 「という割にはそのは傍に居ても平気なんだ。ふーん……もしかして君の彼女さんだったり?」


 「んなわけあるか!」


 「まぁさすがにないか。でも君が平気な理由が判る気がするよ」


 「はぁ?」



 他のお客さんを捌いていたときの生真面目そうな雰囲気はどこへ行ったのか、一変して砕けた態度でガジェドさんたちと喋る青年は非常に楽しげだ。


 蚊帳の外に置かれて少し寂しくしていると少年が話の矛先を私に向けてきた。



 「そこの君、なんて言うのかな?」


 「わたしですか? わたしはアスピです」


 「アスピか……おっと、すまない。名乗るのを忘れていたよ。僕の名はウルド。しがない街道宿屋の店主をやってる変わり者のハーフエルフだよ」


 「ハーフエルフ?」


 「そうだよ。ヒューマンとエルフとの間に生まれた子供のことさ」


 「だから耳が長いんですね!」


 「まあそういうことだね」



 エルフは基本的に自然豊かな山や森の奥深くで暮らしているとされる非常に長寿な種族だと本に書かれていたのを思い出した。


 もしかしたら外の世界に居た頃のお婆ちゃんのこととか知ってたりするかも――――そんな好奇心に駆られたわたしは声をかけようとして



 「ウルドも相変わらずだな。おしゃべり好きなのは悪いことじゃねぇが後ろが詰まってるみたいだ。さっきからさっさとどけろって視線が飛んできて正直居心地が悪いんでな。さっさと手続きして夜にでも酒交わしながら会話にでもしゃれこもうぜ」


 「おや、僕としたことが。そうだね、またあとで――――」



 こうして各々部屋の鍵を受け取ったわたしたちは1日お世話となる自室へと向かった――――

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