第14話 見張をしよう

「おいアスピ、お前まで起きてる必要はないんだぞ?」


「えへへ」


「まったく……」



 干し肉に固形スープの素を薄く溶かしたほとんどお湯のような何かという簡素な食事を終えた頃、すっかり夜の帳が辺り一面を包んでいた。


 月明かりや点々と煌めく星々の光が遠く彼方に見えるのは森の中でも外の世界でも同じなんだと、牧場の夜に初めて知ったときは少しがっかりだった――――なにせ、代わり映えのない風景よりも違うものが見たいから。


 だから未知の塊であるガジェドさんをぼんやり眺める。



「さっきからじろじろ見るんじゃねぇよ気色悪い」


「え~いいじゃないですか」


「よかねぇよ。俺は今、見張り番の途中なんだよ。気が散って仕方がない」


「えへへ」



 ガジェドさん、フリエラさん、そしてボルドさん。人生で人と一緒に過ごしたのはお婆ちゃんが生きていたとき以来だ。それからわたしは一人で生きてきた。


 一人でも未知があれば楽しくやっていけると思っていたけど、心のどこかで寂しくて寂しくて堪らなかったのだろう。だから、誰かと一緒に居る――――それだけわたしは自然と笑みが溢れるのだ。


 だけどそれはわたし個人の気持ちであって、個人の我儘で仕事の邪魔をするわけには行かない。だからわたしは視線を前へと戻すことにした。


 静かな時が続き、ふとガジェドさんが口を開く。



「なぁアスピ。大森林ってどんなとこなんだ?」


「うーん、自然がいっぱい不思議がいっぱい?」


「よくわからん……あーそうだな、何があるんだ?」


「とにかく巨大な樹木に光るキノコとか、重さの変わる鉱物とか蠢く草花とかいろいろです!」


「お、おぅ……やべぇとこだな」


「慣れれば平気です!」


「慣れれば、な……と、そろそろ時間か」



 ガジェドさんはビクリと身体を震わせるとポケットから月光のような淡い光を帯びた砂の詰まった砂時計を取り出した。



「それはなんですか?」


「これか? ああ、月光時計っていうんだ。すべての砂が落ちきるとすげぇ振動するんだよ。なにやら朝のうちに陽の光を魔力に変えて蓄えているとかどうとからしい。詳しいことは知らんから造ったやつにでも聞け」


「造った人と知り合いなんですか?」


「……いや、そういうわけではない――というかどうせ造った人の名前を教えてくれとか言いだしそうだから先回りして言うが、名前も知らん。聞けって言ったのはまぁあれだ……言葉の綾だ」


「ガジェドさんやフリエラさんってもしかしてエスパーですか?」


「なんだよエスパーって? どこかの民族か何かか?」


「超能力が使えるすごい人のことです! お婆ちゃんが読んでくれた絵本によく出てくる人たちで勧善懲悪のヒーローなんです!」


「お、おぅ……変わった婆ちゃんだったんだな」



 確かに思い返してみれば、お婆ちゃんは時折よく分からないことや小難しいこと、不思議なことを言う節があった。それをわたしのたった一言二言で見破るとは……やはりガジェドさんはエスパーに違いない!


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