第13話 小屋を作ろう

日が暮れ始めた頃、わたしたちは街道の傍に馬車を停め、野営の準備を始めた。



「嬢ちゃん悪ぃが火種起こしてくれねぇか?」


「お安い御用で!」


「はは、頼むぜ!」



 そろそろ夜になるからか、徐々に肌寒さが増していく。若干だけど、口から息を吐けば白く見えるほどだ。


 これは冷える前に先に寝床を造ったほうがいいかもしれない――――そう思ったわたしは剣の手入れに集中しているガジェドさんに声を掛けた。



「ガジェドさん、先につくってもいいですか?」


「何をだ?」


「えっと、寝床です」


「・・・は? あ、いやそうか。生憎だが今回はテントとかそういう類は馬車には積んでない。だから街に着くまで悪いが雑魚寝で我慢してくれ」


「いえ、簡易な小屋を造ろうと思いまして……」


「小屋ってお前……今から木でも伐り出すつもりかよ……」


「いえいえ魔法でちょちょいと家を造るのです!」


「はぁ?」



 森で野営するとき、わたしは土魔法で家を造って夜をやり過ごしてきた。


 なにせ、家が無ければ寝ているときに無数の虫に身体を這いずり回されたり、無防備な状態で魔物に見つかったり、雨でずぶ濡れになったりと碌なことがないからだ。


 だけどガジェドさんの様子を見る限り、家を建てることはしないらしい。


 わたしが過去に体験した嫌な出来事の数々は、ガジェドさんにとって微塵も気にするほどのことでもないのだろう。男だからなのか、それが当たり前なのか。とにかくガジェドがすごく逞しいことは分かった。だけど……



「ガジェドさんは大丈夫かもしれませんけど……何もせず地べたで眠るのは苦手なので勝手ながら家を造らせていただきます――――えいっ!」



 掛け声と共に杖を地面へと突き刺したわたしは地中へと魔力を流し、地面を隆起させる。そして、そのまま土塊を大きく成長させていき、立方体へと形を整え、中をくり抜いていく。


 そうして人ひとりが大の字で眠れるスペースのある土の家が完成した。



「う、うお!? なんだこりゃ!?」


「家です!」


「いや、そりゃそうだが……そうか、家か。家だよな。家……家かぁ………」


「おいおいおいおい何かすげぇ音がしたと思って来てみりゃ家が立ってるじゃねぇか!?」



 さすがに重量のある土の塊が大量に躍動的に蠢けばそれ相応の騒音が辺りに響く。それに驚いてやってきたボルドさんが驚嘆の声を上げた。



「まさか嬢ちゃんが造ったのか?」



 杖を地面に突き刺したままのわたしを見てそう聞いてきたボルドさんに頷くと、ボルドさんは心配そうな顔を浮かべた。



「嬢ちゃん、魔力は大丈夫なのか?」


「これでもわたし、錬金術師ですので!」


「な、なるほど? 錬金術師っつうのはすげぇ魔力もってんだな」


「はい! 錬金術師は魔力が肝心ですから!」



 錬金釜から不思議な液体を湧き出させるにはたくさんの魔力が必要だ。殊更、釜を用いず錬金術を熟すならばその更に数倍もの魔力が必要だ。


 そもそも錬金術が何かと言えば、では高度な魔法技術を用いて物理的には製造不可能な代物を創り上げるすべだとお婆ちゃんは言っていた。

 そして、本来起こりえないことを現実のものにするのだからそれ相応の代価が必要だとも言っていた。


 時折、お婆ちゃんはよく分からないことを言うけれど、でも言いたいことは何となく分かる。

 要は魔力がたくさん必要ってことだ。つまり、魔力が無ければ錬金術師としてやっていけないのである。


 だから、わたしは錬金術師になりたくて、幼い頃からお婆ちゃんと一緒に魔法の鍛錬をしてきたのだから……



「どうした嬢ちゃん? いきなり黙り込んで」


「いえ、少し昔を思い出して……」


「そうか、あとできればいいんだが、あと2つこれって作れたりするか?」


「まだまだいけます!」


「おお、じゃあ悪ぃがあと二つ頼むぜ!」


「任せてください!」



 そうして更に二つ、自分用よりも二回り大きな小屋を造ることとなった――――


 

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