第4話 魔法の力

 アーニャは魔物の方に向き直り杖を構えると再び呪文を唱えた。


「凍てつく氷の刃! アイスブレード!」


 呪文の詠唱を終えると杖の先端から青い光が放たれ、魔物の頭上に巨大な魔法陣が現れた。

 そしてアーニャが杖を魔物目掛けて振り下ろすと、魔法陣の中心から巨大な氷の刃が生成され魔物目掛けて勢いよく降下した。

 その圧倒的な質量は魔物の甲殻を物ともせず、鋭く尖った切先は深々と魔物の背に突き刺さった。

 突如現れた巨大な刃に串刺しにされた魔物が何が起きたのか理解した頃には時既に遅く、もがけばもがく程氷の刃はその自重でさらに深く突き刺さるのだった。


「凄い……これが魔法か!」

「油断しないで、魔物はまだ生きているのよ。今のうちにとどめを刺さないと」

「けど俺の剣はやつには通じないんだ」

「だったら通じるようにするまでよ。全てをのみ込む炎の力を、エンチャントフレイム!」


 その呪文に合わせて杖の先端からルインの剣目掛けて赤い光が放たれた。

 放たれた赤い光がルインの構えた剣に吸い込まれると、刀身部分を包み込むように激しい炎が吹き出した。


「それなら切れるはず、魔物の首を狙って!」

「なんだかよく分からないがこれなら!」


 ルインは高く跳躍すると魔物の首目掛けて勢いよく剣を振り下ろした。

 炎を帯びたその刃は魔物の甲殻をまるでバターのように容易く切り裂いてゆく。

 切り裂かれた断面は焼け焦げており、そのせいか鮮血が飛び散ることもなく、魔物の首は見事に両断された。


「ルイン、今のはなんだ」

「俺にも分からない」


 レイヴは先程の氷の刃に巻き込まれないよう咄嗟に物陰に退避していた。

 その目には明らかに驚きの色が見て取れた。


「そうだ、アーニャは」

「ここに居るわ。私が居なかったらあなた達危なかったわよ」

「それはお互い様な気がするが……何にせよ助かった」

「ルイン、誰なんだ彼女は」

「私は魔法使いのアーニャ、よろしくね」

「そういえば俺達の自己紹介がまだだったな。俺はクロナ村のルイン、そしてこっちがレイヴだ」

「ところでアーニャ、君はどうしてこんな所に居るんだ?」


 アーニャは先程仕留めた魔物を指差して言った。


「ここ最近、近隣の村々で魔物の出現報告が相次いでいるの。私はその原因を探っていたのよ。あなた達、何か心当たりはないかしら」

「心当たりと言われてもな……」


 ルインはレイヴの方を見たがレイヴも困ったような顔で首を傾げていた。


「俺達はもう何年もここで狩りをしているが魔物を見たのは今回が初めてだ」

「そう、じゃあつい最近魔物の出現の原因となる何かが起きたってことよね」

「出現の原因?」

「そう、分かりやすく言えばマナの異常発生とかよ」

「マナの異常……ルインなら何か分かるんじゃないか」

「どういうこと?」


 二人はルインの特異体質の事、どうやって魔物を追跡してきたのかをアーニャに詳しく説明した。

 話を聞いたアーニャは少し考え込んでいたが、二人の話が真実であると理解すると、二人に調査の協力を願い出た。


「この辺りのことならあなた達二人の方が詳しいし、何よりその話が本当ならルインの能力はきっと調査に役立つ筈だわ」

「俺達としても魔物が出現した原因は調べておきたいからな。断る理由はないさ」

「で、まずはどっちに行くんだ?」

「あなたの目には何か見える?」


 ルインは素早く木の上に登ると周囲の様子を確認した。

 すると村とは反対の方角にある洞窟の周辺から立ち上る異常な量のマナが見て取れた。


「異常に濃いマナが見えるが、あの場所は……」

「どうかしたの?」

「村の守り神が祀られてる祠だ。でもなんであんな場所から」

「とにかく場所が分かったなら急ぐわよ!」


 三人は祠のある洞窟へと急いだ。

 

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