第7話 友達



 ***



 公園のベンチに座る夢乃の眼は赤く泣き腫らした跡が残っていた。


「あ、あの……幸哉に会うことって出来ますか?」

「会ってくれるの?」

「はい……会いたいです。どんな姿でも幸哉は幸哉ですから」


 夢乃は自分に言い聞かせるようにそう言った。


 だが、夢乃は不安でたまらない状態だった。


 それもそうだ、長く付き合ってきた彼氏が突然記憶喪失と聞けば平気でいられるはずがない。


「あの……あたしと幸哉は友達ということにしてもらってもいいですか?」

「え? 友達……だけど2人は──」

「はい、付き合ってます……。だけど、記憶のない幸哉がいきなり彼女がいるって知ったら戸惑うと思うんです。

 だから、記憶を取り戻したとき……たとえ思い出さなくても……また、幸哉に好きになってもらえるように頑張ります」

「……わかったわ」


 幸恵は涙を拭いながらそう答えた。


「幸哉、入るわよ」

「うん」


 幸哉の自宅に戻った2人はその足で部屋へ向かった。

 幸恵の問いかけに対しドア越しに幸哉の声が夢乃の耳にも届いた。


「(幸哉……幸哉の声だ。今日から、あたしと幸哉は……友達)」


 夢乃は心の中でそう唱えた。


「こ、こんばんは……」

「えっと……誰ですか?」


 夢乃は震える声を抑えながら発したが幸哉から返ってきた言葉は……幸哉の記憶がないと実感するには十分だった。


「あ、えっと……お、同じクラスの中西夢乃だよ」


 夢乃は出来る限り明るい声で返した。


「ごめんなさい。覚えてないです……」

「大丈夫だよ……。えっと、今日はこれを届けにきたんだ」


 夢乃は笑みを浮かべるとカバンから学校で渡されたプリントを出した。


「学校……」

「そうだよ。あ、明日写真……持ってくるね。おばさん、明日もお邪魔して大丈夫ですか?」

「ええ、是非来てちょうだい」

「ありがとうございます。じゃあまた明日来ます」


 プリントを幸恵に渡した夢乃はその場を後にした。


「……うぅ……ふっ……」


 夢乃は自宅へ戻る道中涙を堪えきれず静かに泣いていた。


「なんで、なんでっ……! 幸哉が……うっ……記憶喪失なの……? お願い、だからっ……思い出してよっ……」


 そして、帰宅した夢乃は制服のままベッドに倒れ込み再び泣いた。


「……っ、もし思い出さなくてもっ……あたしはっ……幸哉のこと……ずっと、好きだよ」


 夢乃はそのまま夢の中へ。



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