二人の願い

卯野ましろ

二人の願い

 小説家になりたい。

 その夢を持ってから、もう十年経過した。まだまだ夢は遠い。やめようか。今ではそう思うことも多くなった。


 ある日、煮詰まった私は図書館へ行った。私は図書館が好きだ。読書が好きだから、というのはもちろんだが、ただただ図書館にいるだけで楽しくなる。たくさんの本に囲まれていると、何だかわくわくする。歩いて歩いて、読みたかった気になる本や、今まで知らなかった本に出会うあの瞬間。本当にお気に入りの一時。

 今日私は『小説家になる方法』を借りることにした。この本を借りるのは、もう何度目になるだろう。こんなに借りているのは恐らく私しかいない、と自分で思ってしまう程に借りている。

 しかし、夢は未だ実現していない。


「はあ……」


 ため息をついて、私は貸出カウンターへ向かった。

 もう諦めるべきなのか。そう考え事をしながら、私は貸出の手続きを終え、司書のお姉さんから本を受け取った。

 とりあえず、また読み直そう。実は私に向いていないという理由も、分かってくるかもしれない。私は歩き始めた。


「あのっ……!」


 え?

 後ろを向くと、司書のお姉さんが真剣な目で私を見ていた。


「はい?」

「頑張ってくださいね。私、応援してますから」


 お姉さん、私がこの本をよく借りていること、知っていたのか……。


「……ありがとうございます」


 私は頭を下げて、足早に図書館を出た。恥ずかしかった。

 でもそれより、嬉しかった。


 そして私は……。




 彼女に会いたい。

 そう願ってから、もう一年になる。彼女はこの図書館の常連さんだったのに、あれから全然来なくなった。最後に借りた本も、私が休んでいた内に返却してあった。

 余計なことを言ってしまったのかな。

 でも、ずっと伝えたかったことだった。


「今日、頑張ろうね!」

「う、うん!」


 いけない。今日は年に一度の図書館フェスティバルだった。しっかりやるべきことをやらなくては。古本マーケット、読書感想文の表彰式、たくさんの出店にそして……。

 若手作家のトークショー。


「まさかあの方がいらしてくれるとはね~」


 同僚も驚いているように、私も意外に感じていた。この図書館に、基本顔出しNGの作家さんが来るなんて。


「何か話によるとさ、ご本人が『作家としての初めてのイベントはウチでやりたい』って言っていたらしいよ」

「へー」

「夢を諦めようと思っていたところを、とある司書に救われたからだとか。ドラマみたいだね!」

「はい皆さ~ん、来てくださ~い」


 館長の声が聞こえ、私たちは作業を止めて駆け寄った。


「本日、トークショーに……」


 話し始めた館長の隣には、


「あっ……」


 ずっと会いたかった彼女が、素敵な笑顔で立っていた。

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