勉強する意味ってあるんですか?

幻想ショコラ

第1話

「君、退学ね」


「……………………は?」



数十分前



学校にある桜の木は綺麗な花が一面に咲き、4月であることを思わせる。少し肌寒いが空気は澄んでいて、呼吸をする度に体が浄化されていくような感じがした。


天気は晴天。雲ひとつ無い大空が俺の目の前に広がる。


そんな素晴らしき日に俺は高校2年生になる。


高校にいれば、進級するのはごくごく当たり前のことだが、それでも俺はちょっぴり成長していくことを実感でき、嬉しく思った。


この始業式も、新しい学年になったんだと感じさせる。


「えー、今日は大変天気も良く、こうして始業式を迎える事ができ、えー、嬉しく思います」


でたよ。でたよ。

校長のえらく長い無駄話。

本当に意味なくね?校長先生の話で「なるほどぉ!」なんて思ったことなくね?

俺だけでなく、全生徒がげんなりするなか、校長はそんなのお構い無しに話を進める。


「えー、みなさんは、えー、これからも一生懸命、えー、勉強に、えー、頑張って、えー」


えーえーうるせぇ。

これも校長あるあるじゃない?

なんか文節ごとにえーを入れてくるの。

あれ、ほんとにやかましいよね。

校長の無駄話が始まってから20分。

ようやく校長の話は終わった。

校長は全てを出し切ったような歴戦のオリンピック選手が如く、スッキリとした表情だった。校長の話のあとは生活指導や、これからの過ごし方に付いて簡単に話があり、始業式は終了。


その後は教室に戻り、担任からの連絡を最後に今日の学校は終わった。


やっと終わった。腕を上に伸ばし、帰る支度を始める。


「涼宮。お前、放課後職員室に来てくれ」


帰りの支度をしている最中、担任である南浩太郎先生にそう言われた。

一体なんなんだろうか。俺は疑問を持ちながらも「わかりました」と返事を返す。

そして、先生に言われた通り、支度が終わり次第、職員室に向かった。

職員室に着くと先生は、「来たか。今から校長先生のとこにいくぞ」と早速、俺を校長室に連れていった。



そして、現在。



「君、退学ね」


「……………………は?」


一瞬、理解をすることが出来なった。

退学ってあの退学か?学校を辞めないといけないということか?自分のなかで退学とはどういうものかを再確認する。


「なんで!なんでですかっ!」


俺は退学にされる理由はない。そう思い、校長に怒りをぶつける。


「なんでですか!?職員室でお酒を売ったり、授業で使う指導用の畑を自分の家庭菜園にしたり、放送室をジャックして校長先生のポエムを読んだりしかしてないじゃないですか!」

俺は無罪であることを必死に主張する。

クソっ!なんで俺が退学なんだっ!俺は何にもしてないのに!

俺は勝手に退学を決められた怒りから唇を噛み締める。


「そこだよっ!そこに退学にされる理由が詰まってるじゃないか!」


校長はなんか叫んでいた。

なんだろう。何を叫んでいるんだろう。俺には理解できなかった。


「いや、理解できるでしょっ!全部!今君が言ってたこと全部が理由だよ!」


俺の心に入ってくるのはNGだと思った。

このハゲ。


「ちょっと!?いまハゲと思ったでしょ!?最近気にしてるのに!やめて!頭頂部見ないで!」


ギャーギャーなんなんだ。あの校長は。あの形相を見ても、正気の沙汰じゃない。もしかしてク〇リにでも手を出しているんじゃ……?


「だしてないよっ!そんなことしないよっ!」


なんだよ。心に入ってくるなって言ったろ。ハゲ。


「泣いちゃう!校長泣いちゃうよ!御歳50歳のいいおじちゃんが高2に泣かされそうだよ!」


本当に校長も涙を流しそうになっていたりと、もはや収集がつかない状態になりかけていた。


「いい加減にしなさい」

副校長である加納幸先生がピシャリと言い放つ。その一言で現場は一瞬で静寂に包まれ、今までのカオスだった状態から一気に重苦しい現実へと引き戻される。


「涼宮君。あなたが退学にされる理由は分かりますね?それは1年生の時に数々の問題を起こしているからです。再三、注意はしてきたはずです。それにも関わらず、あなたは問題を起こし続けてきた。それでもあなたは退学に疑問を持ちますか?」


副校長の話は大変筋が通っており、俺の退学に同情の余地はない。確かに俺は様々な問題を起こしてきた。傍から見ても、退学は秒読みだったかもしれない。それでも、正面から退学と言われれば心にくるものがある。何とかして退学を回避できないか、そう考えていると校長が口を開いた。


「退学。したくないよね?」


「そりゃ、もちろんしたくないですよ…」

退学なんかしたくない。当然のことだった。


「僕から1つ。提案があるんだ」


「提案ですか…?」


「うん。君の退学は一旦、保留してもいいよ。でも、その代わりにあることをしてもらう」


「そのあることって…何ですか?」


「それは日本一の大学、成都大学への合格だよ」


は?成都大学だって?成都大学といえば、世界大学ランキングでも毎年上位に入る日本が誇る国立大学。


「正気ですか?俺なんかが成都目指すなんて…だいたい受かる訳ないでしょ…」


「そうかい?僕はそうは思わないけどなぁ。ぶっちゃけ、最近の我が校の進学実績は芳しくなくてね。それが影響して、受験人数も減少傾向だ。君が成都大学に受かれば、この状況を打破できる。さて、退学か成都合格か。この場で答えを出してくれ」


なるほどな。俺を学校の実績作りに利用するつもりか。このタヌキめ。しかし、成都合格を目指さないということは退学を意味する。俺は退学にはなりたくない。そうとなれば、俺に残された道はたった1つ。


「わかったよ、成都大学に合格してやるよ!」


俺の回答に校長はニコッと笑い、「これから頑張ってね。涼宮君」と満足げにそう言い返した。


このときの俺はまだ知らない。

成都を目指すことがどれだけ大変なことかを。そして、校長が成都を目指させた本当の理由を。

「校長。どうして彼を退学処分にしなかったのです。我が校は有名大学の進学実績は十分にあり、受験者数も年々増えています。それにもかかわらず、なぜ、あのような嘘を」

「ふふふ。なんでだろうね?」

「教える気はないということですか」

「まぁ、気を悪くしないでくれ。然るべき時が来たら教えるさ。君にも、彼にも、ね」

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勉強する意味ってあるんですか? 幻想ショコラ @chocola-0114

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