歪み

柚緒駆

歪み

 建物が歪んでいると住民が騒ぎだし、立ち入り禁止となった新築の高層マンション。建築会社が調べてみたが、数値的には何処にもまったく問題がない。ほとほと困り果てた末、藁にも縋る思いで霊能者に頼る事に。

 やって来た霊能者は、早速『マンションの霊』を呼び出した。しばしの交信の後、霊能者は深い溜息と共につぶやいた。

「なるほどこれは歪んでいる」

 建築会社の社員たちは顔色を変えて霊能者に詰め寄る。

「何処が、いったい何処が歪んでいるのですか」

 霊能者は落ち着き払ってこう言った。

「私はマンションの霊にたずねたのです。『あなたは住民の方々に歪んでいると言われているが、どう思うか』と」

「それで、何と答えました」

「彼は微笑んで言いました。『自分は歪んでなどいない。歪んでいるのはいつも世界だ』」

「そこかよ」

 社員たちは頭を抱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歪み 柚緒駆 @yuzuo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説