地区予選 哲也

 公式戦初勝利です。僕は生きていて初めて勝つということを味わいました。不思議な感じです。嬉しくて、嬉しくて負けたときもそうでしたが、勝ったときも同じように夜眠ることがなかなかできません。でも負けたときと違ってとても気分がよくて、こういう眠れないのはいつもあってもいいと思いました。僕は前の試合で負けたのは自分がしゃべりすぎてみんなの気を落としてしまってるんじゃないかと思いました。だから練習中は聞かれたことだけを答えようとしました。それも、はいと違うだけの答えにしようと思って、思ったことを口に出そうとしても言わないようにがんばりました。今までもそうだけど、僕がしゃべるとみんな僕を怒るからです。僕はみんなを怒らせないようになるべく、いや、もうしゃべらないように決めました。加納先輩に嫌われたら僕もう試合にでられないし、バスケ部にいられないし、今度こそどうやって生きていけばいいのかわかりません。僕はもう高校生だし、いつまでも、お母さんが助けてくれるわけはありません。僕もお母さんに助けられるのはもう嫌です。だから、もうしゃべらないようにします。みんなとやる練習もみんなと合わせます。みんなと同じような動きをします。もっと、うまくなる練習はみんなが帰ってからします。そうしないと、みんなに怒られるからです。みんなと同じ練習のときはみんなと同じようにしなくてはいけません。僕がそうしたおかげで加納先輩からは嫌われることなくゼッケン9番をもらえることができて試合にもでることができました。本当はずっと出ていたかったのですが後半からの出場になりました。もしかして今日は試合に出られないまま終わってしまうのかと思いましたが関山先輩と交代になりました。僕が出たときは二十点の差がついていました。相手のチームはすごくうまいチームです。それを逆転して勝たなくてはいけないのですから大変です。僕は時々お爺さんの声を聞きます。だから誰がどこにパスするかは大体わかります。あとはどうやって僕のところにボールをもってくるかを考えます。シュートは毎日練習していますから決めることはできます。加納キャプテンはシュートが決まって嬉しくないのかと言いましたが、僕はどういう意味なのかよくわかりません。まだ勝っていないシュートを決めるとほかの人は嬉しいのでしょうか。僕は加納キャプテンに質問しましたが、悪かったと言うだけで、正解がわかりませんでした。途中から僕をすごくマークする人がでてきました。この人を振り切るのは大変でした。ボールも持っていないし、みんなから離れているのに、どうしてずっと僕をマークしているのかが、わかりません。だけど僕はバスケをしなくてはいけません。振り切ってシュートを決めなくてはなりません。僕がもし、このままでいたらバスケ部をやめさせられるかもしれません。それだけは嫌です。だからがんばりました。勝ててよかったです。まだバスケを続けられそうです。これからももっとがんばろうと思います。

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