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 クリスマスデート用の金を工面するに当たって、我慢していたことがいくつかあった。それはたとえば充電があまりもたなくなってきたスマートホンや前カゴが歪んだ自転車の買い替え、新作ビデオのレンタル、カレー屋で外食するときの追加トッピングなどだ。


 デートはもはや冬の幻と消えた。残った金で何をしようと僕の自由だった。自転車はまた後日に回すとして、まずスマートホンを買い換えよう。旧作落ちを待っていたDVDだっていまなら何の躊躇もなく借りられる。それどころか、コートやマフラー、それにブーツだって新調できる。そうだ、家で食べるケーキも買っていこう。自分へのクリスマスプレゼントだ。パーッと使おう。そう考えるだけで気分が高揚するのだから僕という男もつくづく現金にできている。


 友達に教えてもらったショップに足を踏み入れると、まるで僕のような独り者へのあてつけのように小ぶりなツリーが飾られていた。なるべくそちらは見ないようにしてあれこれと商品を手に取っているうちに、若い女性がじっと僕を見つめていることに気づいた。跳ねる心臓。聖夜の奇跡を期待した僕を誰が責められようか。


「あの……」


「はい!」


 僕の反応は早かった。あんまりに早いもんだから、声をかけてきた女性さえ引いていたような気もするけど当時の僕はそんなことは気にもしなかった。


 さあ、何なりと言ってくれ。幸いにして僕には金も時間も有り余っている。ショッピングでも高級レストランでも、君が望むところに連れて行ってあげるよ。そんな心境だった。


「これ、ちょっと着てもらえませんか?」


「……はい?」


「彼氏と背格好が似てるんです。実際着てみたらどんな感じになるかなーって」


 何なりと。心の中とはいえ、一度言ったことは覆さないのが男だ。僕は快く引き受けた。何、美人の頼みを受けるのは悪い気がしない。それが彼氏持ちでなければもっといいのは言うまでもないけれど。


「ありがとうございました」


 感謝をたたえた笑みを見せる彼女。やはり恋する女性は美しい。その相手が自分だったならどれだけよかっただろうと思うと胸が苦しくなる。

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