#39 副社長

「先ほどはお疲れ様でした。ダニエル・ゲイツ社長。さすがですね、あんなもの作るなんて」


 楓はダニエルのスピーチに対し、軽く謝辞を述べた。

「ありがとうございます。いやはや、社員には感謝しかありませんよ。この発表会を企画したオーウェンにも感謝です」


「オーウェンって、オーウェンさんって副社長の?」


「ええ、そうです。彼には助けられっぱなしですよ。実は社名の案を出してくれたのも彼なんですよ。恩人です」


「そうなんですね。それは初耳でした」


 話し込んでいると、髪の薄い中年の白人が部屋に入ってきた。オーウェンだった。


「社長……あーっと、ゲイツ社長。準備が整いました」


「そうか、ありがとう。紹介しますね、彼が先ほど話していた副社長のオーウェンです」


「どうも黒柳楓です。はじめまして」


「石黒健です」


 コニーは2人と握手を交わし、愛想のいい笑顔を浮かべた。


「どうも、オーウェン・テイラーです。今日はどうでした?」


「よかったですよ。とても」


「ありがとう。これからもっと良くなりますよ」


 そう言うとオーウェンは部屋全体を眺めるように見渡し、一番端にいた真美のところで視線を止め、軽くうなづいた。


「どうやら全員揃ったようですね。では始めましょう。歓迎会だ」


 オーウェンは部屋の扉を開けた。すると、黒いスーツの上からでもわかるほど恰幅のいい男が何人もぞろぞろと入ってきて、扉のある側の壁沿いにずらりと並んだ。周りの人間も、事態に気づいたらしくやや静まり返ってオーウェンの方を見ていた。


「……ゲイツ社長、なんのサプライズです?」


 楓がダニエルの方を見ると、ダニエルは戸惑いの表情を浮かべていた。


「オーウェン。これは君のサプライズか?」


 オーウェンは扉を閉め、静かに笑った。


「サプライズ……たしかにサプライズに違いないですね。クーデターと言う名のね」


 部屋に低いざわめきが広がった。


「オーウェン、それはどういうことだ」


「簡単に言うと、あなた方をCROWS社本社ビルに軟禁させてもらいます。よほどのことがない限り手荒な真似はしないのでご安心を」


「何が目的だ。この会社は私のものだ」


 ダニエルがオーウェンに詰め寄った。



「質問は1つずつにしてくださいよ。第一、物事には順序がある。まず、この会社の社員の大半はすでにあなたの支配下にはなく、すでにムクタの一員だ」


「ムクタ?」


「あなたも知っているでしょう、自由を掲げる団体だ。ムクタは解放戦争を仕掛ける。そして、戦うのは我が社の無人兵器が主力だ」


「無人兵器は軍の、“モリグナ”の支配下にあるぞ。彼女たちを籠絡するのは簡単じゃない」


「分かっていないようだ。開発したのは社員だ。その社員がムクタにいると言っているんだ。すでに“モリグナ”は我々の支配下にある」

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