#38 “モリグナ”

 18時、楓たちはホールのようなところに呼び出されていた。正面には大きなスクリーンが広げられている。周りは政府の要人や企業のトップで溢れかえっていた。


 すると、ステージにダニエルが登場し、拍手で迎えられた。


「本日はCROWS社にお越しいただき誠にありがとうございます。本日お招きした理由は他でもありません。我が社の新製品を披露するためです。これから紹介するのはすでに軍に納品されて極秘配備されているものです。特別に許可をいただき、ここにいる選ばれた方々にのみ披露します。さて、それに先立ち、我が社が主導して作った世界最高峰のコンピューターシステムを紹介します。まずは画像をどうぞ」


 スクリーンに整然と配置され、コードが張り巡らされた無数の黒い箱が映った。


「これはアメリカに置かれた1号機のものです。すでに2号機はヨーロッパに配置されています。詳しい場所は最高機密なので言えませんがね。紹介しましょう。スーパーコンピューターシステム“モリグナ”です」


 ケルト神話の戦女神の3柱の総称、“モリグナ”。カラスの姿で現れるという。


CROWSカラスに相応しい名前ね」


 楓は左隣にいた健に囁いた。


「“モリグナは、”“モリガン”、“ヴァハ”、“バズヴ”の3つの独立したシステムからなります。それぞれ計算能力は今までのどのコンピュータよりも高いものです。それが3つ連なっているため、他のどのコンピューターもこの“モリグナ”の計算速度には敵わないでしょう。またそれぞれにAIが導入されていて、合議制をとることで慎重な意思決定をすることも可能です。その高度な計算速度と意思決定能力によって“モリグナ”単体で国を動かすことが可能なレベルにまで達しています。無論、これを我々だけで制作することはできません。この“モリグナ”制作にあたって、ブラッドリー財団をはじめ──」


 ダニエルは有名企業からベンチャー企業、制作投資に関わった全ての事業所の名前を読み上げた。


「さて、ここからが目玉です。我々は新型の無人兵器を開発しました。原寸大の画像を見せましょう。それがこちらです」


 スクリーンに全高2メートルほどの人型ロボットが映し出され、会場にどよめきが広がった。人型とはいえ、スタイリッシュというには程遠く、肩が横に張って恐らく頭にあたるであろう部位は胴とほぼ一体化していた。そのほかにも全翼機型の無人兵器、戦車のようなものなどが映し出されていた。


「これらの最大の特徴は、人の衛星中継による遠隔操縦でなく、先ほど紹介した“モリグナ”に委託することで、攻撃のみを人の手に任せる、あるいは全く人の介在がない状態での組織的な作戦行動をとらせることができる点です。つまり、国とその軍隊を動かすことのできる“モリグナ”は機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナとなり、無人兵器たちはその傀儡たる兵士となるのです。また、これら無人兵器にも簡易ながらAIが備わっており、接続が切れた場合でも行動が可能です。画期的な無人兵器を使うことで戦場から人はいなくなる。死者はいなくなるのです」


 会場から拍手と歓声が挙がった。会場を震わすほどの大きな拍手だった。


「戦争が過熱しそうね」


「そうだな」


 その後、いくつか“新製品”の紹介を経て、お開きという形になった。


「これで以上になります。それでは、この後は、食事会を予定してますので、待機場所への移動をお願いします。場所は入り口で配られた紙に書いてある数字を参考にしてください。では、また会いましょう」


 ダニエルはステージから出て行った。会場からも続々と人が出て行き、楓たちも会場の外に出た。楓たち3人の紙には『1』と書かれていた。


「じゃあ行きますか、1の部屋」


「なんでわけるんだろうな」


「一個ずつの部屋が小さいんじゃないんですかね?」


「そうかもね」


 1と書かれた部屋に行くと、中にはダニエルと有名企業の役員と思われる人が何人かいた。

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