#14 妨害と接敵

 a小隊が抱いていた疑惑は着々と現実のものになろうとしていた。ジェイコブが異変に気付いたのは4時50分。アクサイチン攻勢が始まって3時間50分後、400高地地上戦が始まって2時間30分後であった。


 理由は至極単純である。包囲最左翼に位置していた中隊との連絡が突如途絶えたという無線が流れた。それと同時に一帯の通信が遮断されたのだ。


「アンシュ、応答せよ。アヤン、シャリア、ノード応答せよ。……だめか」


 ジェイコブは隷下の小隊長に応答を求めた。しかし、返ってくるのは激しいノイズが入り、まともに聞くことすらできない音だけだった。


 このような状況に陥ったときの対処法をジェイコブは自中隊に伝えている。しかし、対処法といっても夜間でもそれが通用するとは限らない。その方法とは接触通信とハンドサインを用いた小隊もしくは2機レベルでの戦闘だ。暗視装置があるためハンドサインは見えなくはないが、たかが知れている。接触通信も、触れていなければならないため現在のような遮蔽物の少ないところでは有用性が低い。


 ジェイコブにできることは己の力量と仲間を信じることだけだった。


「くそ、本部との連絡も取れねぇから被害がどこまで出てんのかわからねぇな。“アフランニク”なら連絡つくんだろうな。あいつはセンサー類と通信類が充実してるからな。クシャトリアなら……まあ、あれはここじゃやりにくいか。どう思うよ、チャド」


 ジェイコブはチャドに機体の愚痴をこぼした。ジェイコブは背中合わせにチャドと即席のチームを組んでいた。背中を合わせているためその声はチャドに届く。


『そうは言ってもこの“ハヌマーン”は通信機器は並みですよ?“アフランニク”は小柄だけど動きが鈍いから近接戦闘力は低い。クシャトリアは、あいつはインド陸軍所属のヒューマーの主力で、でかいわりに機動力も高い。でも重いから高地だと足を取られかねない。ハヌマーンが理にかなってるんじゃないんですかね』


 チャドがすらすらと答えた。お前はほんと兵器が好きなんだな、とジェイコブが言うと好きなだけですよ、と返してきた。


 楽しげに会話をしているがジェイコブのその目はしっかりと赤外線カメラが投影するモニターを見据えている。まるで闇夜で獲物を仕留めるフクロウのごとく。そのモニターには400高地ではなく、包囲しているはずの味方左翼方面が映っていた。何機かのヒューマーとc小隊も映っている。チャドは逆に右翼方面を見ていた。


『右翼警戒。動きがあります。距離300』


 チャドが低い声で言った。


「味方じゃないんだな?」


 そう言った矢先に垂れ流していた無線に激しいノイズとともにヒステリックな声が聞こえた。


「全機右翼警戒。敵機至近。戦闘用意だ、高地からの攻撃にも気をつけろよ」


 無線に呼びかけてはみたものの聞こえているという期待はしていなかった。一応、と言う側面が強い。


『何故です?攻撃を受けたのは左翼じゃありませんでしたか?』


「左翼壊滅は偽の情報だったか、あるいは両方から来ているか……どちらにせよ危険は右翼から来た。それだけだ」


『……まずい』


「どうした?」


『畜生!あれはノード少尉の機体だ、肩から戦斧バトルアクスを突き立てられた!』


 ジェイコブは自分の耳を疑った。ノードがやられた?ノードはd小隊の小隊長でd小隊は中隊内で一番右翼に展開していた。


 ジェイコブは機体をチャドと同じ方向に向けた。カメラをズームしそちらを見る。不思議と銃声はなかった。どうやら敵は近接武器を多用して味方の間に入り、誤射を気にしているうちに抹殺していくようであった。


「チャド!撃て、銃声をたてるんだ。当たらなくてもいい」


 チャドはそれを聞いて軽く狙いを定めて三点バーストで撃った。


「チャド、近接武器は使い慣れてるか?」


『慣れてはないですけど小隊内1位の腕の自信はありますよ。まさかとは思うんですけどあそこにいくんですか?』


「ならよかった。ああ、そのまさかだ」


 ですよね、と呆れたように、半ば諦めたようにチャドが呟いた。


『反対側にいるアンシュたちはほっとくんで?』


「連れて行く」


『どうやって?』


 ジェイコブは振り向いてアンシュがいるところに2発撃ち込んだ。


 アンシュ機がこちらを向いたのを確認して、こっちに来い、とサインを出した。少しの間ののちにアンシュら3機がこちらに走ってきた。


『当たるところでしたよ!』


 アンシュがジェイコブ機に触れ怒ったように叫んだ。


「悪りぃな、時間がないから許してくれ」


 そうかもしれないけどと、もごもご何事か呟くのを気にせずアンシュに先ほどのことを手短に伝えた。


「行くぞ」


 a小隊は一気に駆け出した。

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