霧晴れて

 晴天。


 ボロボロになった娘を抱えて、王都に戻った俺はカルラが治療を受ける診療所を探り当てた。


 傷が癒え次第、治安部隊に引き渡されるらしい。


 そいつは仕方ない、それだけの事はやっちまったからな。


 扉の向こうには、惚れた女が如何にか命長らえて眠っている。


「……さあ、嬢ちゃん。姉さんはこの向こうだ」

「……おじさんは?」

「……おじさんは止めろって。まあ、良いさ、俺は行くよ」


 そう告げて、俺は踵を返す。


 カルラの妹が引き留めようと声を上げるが、それを無視して進む。


 ぐらりと、体が揺れ動く。


 まだだ、ここじゃ無様を晒す。


 ああ、畜生。全身から力が抜けるようだ。


 まあ、あれだけの大立ち回りをしたんだ、仕方ない。


 だが、子供に無様は見せられん。


「おじさん! ありがとう!」


 代価は少女のお礼か……。


 師匠、結構良い代価貰っただろう?


 そう師匠に自慢してやりたい気持ちだ。


 診療所の建物を出て、人のいない場所を目指す。


 何処までも、何処までも、


 俺は真夜中の霧、晴れた昼間にゃ立ち消えちまうものさ。




 よお、お前等、そこで待っていたとは暇人だな。


 俺さ、アルバンの奴を……


【了】

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夜霧の彼方 キロール @kiloul

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