第16話 客を作る




自分の客を作ると言っても、簡単にできるわけではなかった。


理由としては、自分の見た目や接客技術、営業の掛け方、全てが低レベルだったからだ。


その自覚は、店長や主任を見ているとよくわかっていた。


客を楽しませる接客は、店長を見て真似して、客に色恋営業をして売り上げを上げる方法は、主任に聞いて学んだ。


ただ、何から手をつけていいかわからなかったため、とにかくキャッチから励むことにした。


キャッチは、元々取れていたが、自分の客になることが少なく、送りもほとんどもらえなかった。


自分の見た目やレベルの低さが店長や主任に劣るためだったが、何かないかと探している時だった。


外でキャッチをしている時、歌舞伎町のホスト達は、それなりに可愛い女の子を見つけると必ず声をかけるが、見た目が良くない女の子や太っている女の子は避けていた。


これは自分の客に見た目が悪い客がいると、部下などに舐められる原因になると考えたり、そもそもタイプじゃないと私情を挟んでいるから、キャッチで避けている。


自分はここに目をつけた。


歌舞伎町を歩いている女の子は声をかけてほしいと思っている人は必ずいる。


特に、男にモテない、ルックスが悪いとなおさら話しかけてほしいと思っているに違いないと考えた。


だから、ホストが声をかけないような女の子をメインに声をかけて、とにかく客数を増やすことにした。


夜中1時ごろ、ホストはまばらでキャッチの数も少ない時間帯で1人で歩いている女の子がいた。


見た目は普通で、太っている。


多分、体重80キロはあるだろうというぐらいの女の子がいた。


ホストは全く声をかけない。


すかさず、その女の子に声をかけた。



「こんばんは!今日は星が綺麗な夜ですね!見えないけど!笑」


くまこ「えっ!笑」


最初の掴みはオッケーだ。



「これからどこにいくんですか?」


くまこ「ブラブラしてるだけだよ」


そこから五分ほど話して、お店に誘うと簡単に来てくれた。


お店に来店すると、店長や主任がすげー奴連れてきたな!みたい視線を感じた。


周りの客も同じようなだった。


ただ、自分はそういうことは全く気にせず、くまこをとにかく楽しませることに集中した。


いつもならグイグイ接客に入る店長や主任も、今回は軽い挨拶だけで、席にはつかなかった。


自分は一所懸命にくまこを楽しませるために、会話を途切れさせず、常に自分がいる状態をキープした。


そして、結局、くまこは三時間ほどいてくれて、ドリンクもそこそこもらえた。


帰りに送りをもらい、満面の笑みでまた来るね!と言ってくれた。


これが自分の最初の担当の客を作るキッカケになった人だった。


くまこはそれから週に3日ほど通ってくれてる常連客になる。


くま子のお陰で、自分の担当としての席があることがとても嬉しく、それがきっかけで接客技術が向上した。


前までは、お酒を作ったり灰皿交換などは、意識しないとできなかったため、会話がそのつど途切れたり、変な間が空いてしまい、重苦しい雰囲気になったりした。


だが、くま子の接客をしているうちに、会話をしながら他の動作を自然に無意識にできるようになった。


このお陰で接客レベルが上がり、新規の客から送りをもらえる確率が少しずつあがった。



送りがもらえるようになったことで、客との連絡先も増えていったが、連絡の取り方がいまいちわからなかった。


そのことを主任に相談すると


主任「なんでもいいからとにかく毎日連絡とれ!」


主任の話だと、毎日連絡取ることで、そのくせをつけ始めると相手が会いたくなるようになるらしい。


そのアドバイスを忠実に守った。


ただ、毎日数人の客に連絡を取るにしても、バラバラな内容だと話が噛み合わなかったり、いってることがごちゃごちゃしてしまうので、全客に同じ内容の連絡の取り方をした。


おはよう今日は寒いね、あの有名人好きだわ、昨日飲みすぎて頭がクラクラしてる、などの同じ内容のメールを連絡先を知ってる客に毎日送った。


ただ、これには問題があった。


メールの内容が薄いと一斉送信などの機能で客からその意図を汲み取られて、信用を失うことにつながってしまうからだ。


そう考えた自分は、メールの内容にプラスその送る客の名前を必ず入れるようにした。


今日は寒いね。くまこ風邪引くなよ


この文章なら、名前以外をコピーして送る。



こうやって名前をつけてメールすると、個人に向けて送ったメールと客は考え、営業で連絡してるという信頼を失う原因を作ること減らすことができる。



朝起きて、この連絡のやり取りが日課になっていった。



それから順調に客は増えていったが、ちょっとした問題がおきる。


主任や店長の客はそこそこ可愛い客、綺麗なお客さんが多かったが、自分の客は太っている客がメインになっていった。


ある時、お店に会社の会長がきて、こう言われた。


会長「お前のお客さんまとめると動物園みたいだな」


かなりムカついて、会長に口答えするのはダメなことだとわかっていたが、言ってしまう。


「自分はこのやり方で頑張ってるんですよ!」


怒りながら言うと、会長が悪かったと頭を下げた。


たしかに客の容姿が悪いかもしれないが、自分にとっては、自分の居場所をくれる良いお客さんだ。


客に対して、気持ち悪いとかそういう気持ちは一切なかったが、あることがきっかけで、その気持ちは少しずつ変化していった。

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長編 元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある? Dio @Daiya1102

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