第13話 ヘルプの難しさ




4人の客はそれぞれ1人ずつで、シンジ店長の客2組とヒロ主任の客2組でそれぞれ、店の常連らしい。


自分は最初に店長のお客さんのユリという若い女性のヘルプについた。


ユリさんは見た目は普通の女の子という感じだった。


自分がよろしくお願いしますと自己紹介すると


ユリ「ねぇあんたはいつ辞めるの?辞めるやつと話したくないんだけど」


人生初めてのヘルプの一言目がこれである。


自分は少し固まったが、いやいや!やめませんよと話した。


ユリ「みんなそういうだよね!あんたみたいなさえない顔の奴は特にすぐに辞めるから話したくもないわ」


自分は苦笑いしながら無言になってしまった。


ヘルプなのに地蔵のようになっている自分に店長からお呼びがかかった。


シンジ店長「無言になるのは良くないからとにかくなんでもいいから話せ!」


というアドバイスをもらったが、そもそもユリさんが人を受け付けないので会話にもならない。


困っていると主任からヘルプを変われという指示が出た。


次に、主任のエリカという客のヘルプについたが、いきなり暗い顔をしている。


エリカさんは全身真っ黒の服に髪は黒いロングで暗い顔がより暗く感じた。



暗い理由を聞くと、主任のもう1人の客のサエという女性に腹を立てているらしい。


主任がその席に着くと楽しそうに話しているのを見ると腹が立つそうで、自分から見たらただの嫉妬にしか見えなかった。


自分はとにかく仕事だからあーいう顔になるじゃないんですか?と話したが、あんたに何がわかるの?と言われ何も言えなくなってしまった。


それから少し経ってからまた席を変わった。


次は店長のお客さんでミスズという女性の席だ。


ミスズさんは、ギャルで茶髪で手にアクセサリーをつけまくってる不思議な見た目をしていた。

そして一番不思議だったのは、店内の音楽に合わせてずっと無表情でパラパラをしている。


第一印象は、なんだこいつわという印象しかなかった。


とりあえず会話をしてみると一応返ってくる。


話はできるみたいだ。


なんとか会話をしていると店内のカラオケが始まった。


カラオケが始まるとミスズさんのパラパラも止まる。


そんなパラパラ接客をしながら会話をしていると席移動の指示が出た。


最後の四人目のサエという主任のお客さんの席に着いた。


モデルのような体型に顔も美人なサエさんに、よろしくお願いしますと話すとよろしくね!と返してくれた。


会話も弾み4人のなかでは断トツで話ができた。


ヘルプ席で自分は思った。


ここが俺の心のオアシスだなと感じた。



そんなオアシスにいながら、ちらっと主任のお客さんのエリカさんの方をみると主任と楽しそうに話すエリカさんが見えた。


自分が接客してた時とまるで別人のように明るい顔で話しているエリカさんを見て思った。



ヘルプの時にあんな顔をさせられるようにやってみようと一つの目標ができた。


それから1週間ほど働いた。


同期の新人のタツヤは3日目でいなくなったが、自分は辞める気はサラサラなかった。


それから仕事に慣れ始めた頃、問題が起きた。




自分はお酒はそこまで強くない。


その日は、店長の太客が来ていて、ビール祭りといって席に着いたらとにかくビール一本一気というルールがあるらしく、自分は何本も一気しまくった。


店長からは、客に勧められた酒は死んでも飲めという教えがあった。


自分はそれを忠実に守っていた。


そのせいか、その日はとにかくベロベロ状態で仕事をしていた。


ベロベロ状態だったからか、気が強くなり、ユリさんのヘルプについた時に問題が起きた。


ユリ「あんたいつ辞めんの?」


ユリさんの席につくと必ずこの一言目が毎回くる。


さすがに毎回毎回言われ、酒も入ってたので、言い返してしまった。


やめねーっていってんだろうが!とテーブルを叩いてしまった。


揺れるテーブルの上で灰皿が落ちた。


それを見たユリさんは


「あんた生意気だわ!だったらやめない根性をみせろ!」


と、いって店長を呼びつけて話をしている。


店長に怒られるなと思ったが、店長は何も言わずにその時はいなくなったが、すぐに店長は空のピッチャーを持ってきた。


店長「お前の根性見せてやれ!」


店長は空のピッチャーに五万円するシャンパンをドバドバ入れ始めてる。


ユリさんは、テーブルの上にあったキープボトルの焼酎やブランデーをそのピッチャーにドバドバ入れている。


ピッチャーの色はどす黒い色を放ち、飲み物に見えない物体に見えた。


ユリさん「これを一気に飲んだら認めてやるよ!」



一瞬頭によぎった。


こんなの飲めるわけない!

そもそも飲み物じゃない!

120パーセント吐く自信がある!


だが、自分はユリさんのお前に飲めるわけないという不敵な笑みを見て決心した。


「やったろうやないかい!」


なんだなんだ?と周りの客や店のすべての人が自分を見ている。


どす黒いピッチャーを取り、ユリさんに言った。


「これを飲んだら認めてくれますね?」


ユリさん「飲めるもんなら飲んでみろ!」


そして、ピッチャーに口をつけた。

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