第36話 黒き猛威

 扉を開けた先は書斎だった。中では剣と剣がぶつかり合う甲高い音が響いている。


「あっちだ!!急がないと!!」


 僕達は音のするほうに駆け出した。その先に居たのは膝を付いて荒く息をする勇者、倒れる魔王と3人の革命軍だった。ユリウスとディアス、そして勇者を追い詰めたらしいローブで顔の見えない謎の女だった。


「やはり来たか、お前達。」


 意地悪く笑いながらディアスはこちらを見た。そんな彼を止めるように手を伸ばした後。その女が前に出る。手には剣と杖を携えていた。


「逃げろ……そいつは……」


 満身創痍の勇者オリヴィエが僕達に逃げるように促す。


「逃げませんよ、勇者様。許して下さい。」


 彼女は瞬時にエリーゼさんの前に接近し、手にしていた剣で切りつけた。彼女はすんでの所でそれをかわす。更に一撃を加えようと、彼女は大剣に変化させたフラガラッハを振りかざす。


「…………」


 彼女はエリーゼさんの剣を弾き、杖に貯めた魔力を解き放った。


「うぁっ……!!」


 エリーゼさんは瞬時に飛びのいたが、右腕に攻撃を受けてしまったようだ。血まみれの腕を押さえながら、彼女は剣を飛ばしてローブの女に抵抗する。


「させるかッ!!」


 カインが二人の間に入って障壁を展開した。それに続いて、僕はローブに向けて呼吸を整えて銃口を向ける。


「顕現せよ、アロンダイト……」


 不気味な黒い泥のようなものが魔弾を防いだ。そして、その泥でカインを障壁ごと包む。


「何だこれは……クソッ!!」


 いとも容易く結界を破った彼女は、そのままカインを吹き飛ばした。


「彼女は一体……?」

「分からない……でも、やるしかない。まずはカインを起こしてきて。僕が時間を稼ぐ。」


 僕は彼女の前に立ちふさがり、二丁の短銃杖を構える。


「ローゼンブリュッケ!!」


 時間を加速させ、彼女の懐に飛び込む。


「……!!」


 彼女が剣を振りかざす。一発、二発と攻撃をいなして機会を伺うが全く隙を見せない。


「それなら……カタストローフェ・エクスマキナッ!!!」


 僕は短銃杖トリガーを引いて火薬を炸裂させながら切りを繰り出す。ローブの女が展開した黒い泥を引き裂き、彼女を刃先に捉えた。


「はぁぁぁぁっ!!!」


 彼女は腹を引き裂かれ地面に伏した。


「……死んだ?」


 その割にはディアス達に焦りが見えない。胸騒ぎを抑え込み、僕は彼女の頭に照準を合わせた。


「カースド……レースノワエ……」


 僕の周りに黒い泥が立ち現れ、弾丸を防いだ。


「そういえばこの泥、性質がエクスカリバーのエーテルと似てる……まさか回復して……!」


 その予想は当たっていた。泥を引き裂いて外に出ると彼女は何事も無かったかのように立っていた。更に僕以外の味方は泥に拘束されていた。


「嘘……でしょ……」


 そう呟いた僕に、ユリウスが口を開く。


「お前ごときが革命軍の長にして魔王の一族であるゾフィー様を怒らせたからだ……そう、革命軍の実態はこの方が魔王に復讐をする為の組織でね……まぁ真相を知ったからといって、お前の行方は死に決まってるのだがな。」


 ゾフィーはディアスとユリウスがいる方に飛びのくと、ローブを取った。彼女の顔を見た僕は驚いた。


「アリン……ちゃん……?」

「あぁ、ホムンクルスE305の事ね。私と同じ顔に生まれた忌まわしい生け贄……まぁ、ウロヴォロスで港ごと姉さんを殺す計画は頓挫したから用は済んだけど。」

「アリンちゃんを馬鹿にするな……!!!あの子の何が分かるんだ!!」


 それを聞いた彼女は、意地悪く僕を嘲るように笑った。


「……フフフ、威勢が良いのね。でも今やりたいことは姉さんだけでも処刑する事。邪魔はしないで。」


 そう言いながら、彼女は黒い塊を大量に作り出した。


「無力を知りなさい……ダークナイト・キャヴァルリー。」


 塊は全てが人の形をとり、じりじりと僕との距離を縮めてきた。


「ちっ……この数は……」


 僕は目の前の一体を倒して強引に前に進んでいく。しかしその奥にいたのは大きな盾を持った人形で、僕は行方を阻まれた。早くゾフィーを切り伏せてやりたいという気持ちがますます僕を焦らせる。


「あぁぁくそっ!!前に行かせてくれよ……!!!」


 相手の盾に銃に付いた刃を突き刺したが、刃がめり込んで抜けなくなってしまった。抜けずにいたが、後ろを見ると槍を持った人形がすぐそばにいた。


「まずいッ!!」

「これで詰みね。」

 

 数本の槍が逃げようとした僕の体を貫いた。


「……いやぁああぁぁぁあっ……!!」


 槍が刺さった所からは血が噴き出している。激しく痛む体を持ち上げようとすると、人形の一体が僕の頭を地に押し付ける。自らの血の臭いで吐きそうになった。


「私にこんな労力をかけさせた罰として惨たらしく死になさい。」


 朦朧とする意識の中でゾフィーの声が聞こえた。


 

 



 

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