第31話 覚悟と想い
勇者は私に近付くと光の剣で攻撃をしかける。つばぜり合いになったらまず勝てないので、出来る限り小さな動きでかわす。
「中々やるな、亜燐。倫のやつから可愛いくて優秀な妹だと聞いていたが…成る程、聞いた通りだぜ!!」
話をしながらでも剣の冴えは変わらない。
「倫はまだ生きてんだろ?あいつには近衛として俺の所に来て欲しいんだ。東国の面白い奴は他にも沢山知ってる。いつしか東国の言葉も覚えたくらいにはな。だけど、あんな面白いやつは他に居ない!」
「それは、お兄ちゃ…じゃなくて、兄も光栄でしょう。」
「お前がアイツを助けられる力のある奴かは大体分かったよ。けど、もう少し付き合いな。」
勇者に押され続けた私は、いつしか壁のすぐそばに来ていた。焦って剣を地面に突き刺して、黒い雷で攻撃するが当たらない。それどころか詰め寄られてしまう。
「くっ……
体を捻りながら回るように勢いのついた剣で攻撃する。
「甘いッ!!」
しかし勇者は上手く剣を合わせて攻撃を力強く弾く。私の右手が衝撃で上に跳ね上がった。
「まずいっ!!」
「もう終わりか、黒嶺亜燐ッ!!!」
回避しようとしたが、覚醒の反動で全身が痛む。思わず跪くと口からは血が滴り落ちる。
「負け……か……」
その時、目の前に赤い障壁が現れて勇者の剣を防いだ。
「アリン、お前ばかりに良い格好させてたまるかよ。まだ戦えるだろう?」
勇者の攻撃を防いだのはカインだった。
「あの位なら躱せたわよ!ナメないで!」
「黙れ。良いから一回距離を置くんだ。」
私は一度、勇者から離れる。すると、エリーゼが攻撃を仕掛ける。
「アリン、私達で時間は稼ぐから……機会を伺って!!」
「アタイの見せ場だ!てやあっ!!」
エリーゼとローシャの波状攻撃が勇者を襲う。見た所勇者が少し押しているが私も前線に復帰したら勝てそうだ。
「アリンちゃん、僕と手を繋いで。」
私がハンナと手を繋ぐと、私の手首の赤い模様が浮かび上がる。
「コネクション…リジェネレイト!!」
私の体の痛みは徐々に消え、再び戦う力が湧いた。
「お前達、最高だよ!!」
勇者はそう言いながら、剣を更に輝かせた。私はエリーゼ達と交代して攻撃に出る。
「はああっ!!」
「ふっ…そこだっ!!」
勇者は光の剣を横に振り、衝撃波で私達を吹き飛ばす。
「さっきのようにはいかない……!!」
咄嗟に私は壁を蹴り、勇者の前に移動して強く踏み込む。勇者の体が浮いているのを見ると技が上手く決まったようだ。
「
力を微妙に調節しながら素早い突きを繰り出す。この攻撃が当たり、勇者は魔剣ダーインスレイヴに貫かれる。そしてそのまま彼を押し倒すともう片方の剣、ティルフィングを勇者の眉間のすぐそばで止める。
「降参だよ…やるじゃねぇか。」
「それより、回復を!!」
「大丈夫だから……さ、剣……抜けよ。」
私が剣を抜くと、勇者からは噴水のように血が吹き出した。しかし光で出来た剣の鞘が傷口に吸い込まれ、血は一瞬で止まった。
「エクスカリバーはエーテルを操る原初の魔法。自分自身に限定されるけど回復にだって使えるんだぜ。」
私はほっと胸を撫で下ろして彼と握手を交わす。
「オリヴィエ、これで満足しましたか?」
「当たり前だ。やっぱお前の見込みは正しかったぜ、メイジー。」
「で、お前には覚悟あんのかよ。」
「……ッ!私にそんな事を聞いて……オリヴィエ、何のつもりですか?国を侵す連中は倒さねばなりません。魔王の名にかけて。」
勇者は少しオーバーリアクション気味に呆れたような態度をとる。そして彼は魔王の小さな肩を軽く掴んだ。
「あのな、そういう話してんじゃねぇよメイジー。
よく考えてみろよ。あいつらが表向きに対抗してんのは魔族だ。なのに港をウロヴォロスで襲う必要はあると思うか?成功したら末路は人間もろとも皆殺しだ。これを考えた奴は、お前が魔王でいる事が気に入らねぇんだとしか思えない。」
「奴らは手段を選びません……だから……」
「嘘はやめろ。思い当たる節はあんだろ?」
魔王はうつむいて、それからチラリと私を見る。
「はい。私にはゾフィーという妹がいました。私よりも能力は優秀でしたが、魔王の素質だけは無かったんです。そして4年前、彼女は魔術を練習している時に事故で命を落としました。革命軍の噂を聞いたのはその辺りからですね。」
彼女の声は、明らかに震えていた。
「妹の死にはいくつか不自然な点がありました。遺体が見つからなかった事、彼女の死とほぼ同時に何人かの即近達が辞めた事……そして、死んだはずの妹そっくりのアリンが現れた事です。」
ハンナはこれにすぐさま反応した。
「アリンちゃんが
「いえ。仮にそうだとしたらここまで必死にはならないでしょう。それを証明するにも、まずはゾフィーが死んだ時に辞めた人物の中で特に妹を大切にしていたユリウスを調べる。ちょうど近いですし。それで良いですよね、オリヴィエ。」
勇者は笑顔になって魔王に語りかける。
「あぁ、その答えを待ってたぜ。」
「待機させている隊員にも伝えてきます。」
勇者は意味ありげに天井を見上げ、それから私たちを見た。
「うーん、そうだな。兵団寮を4部屋開けてあるんだ。リナルドがそこまで案内してくれるから、今日はもう休め。二人相部屋になるけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。分かりました。」
いつも通り、ハンナと私が相部屋する事になった。荷物を片付けながら、他愛もない話をする。外はもう日が落ちていた。
「いつもより部屋、広いね。」
「うん。久しぶりにゆっくりできそう……」
そんな時、ベッドの上に置いた私の鞄から金属がぶつかる音がしていくつかの物が落ちた。それは私が夜の為に買った首輪と手錠だった。
「何か落ちた?」
ハンナの声がした。すぐに仕舞えば良いものを、私はそれを躊躇った。
「これは何かな、アリンちゃん?」
首輪の音を鳴らしながら、ハンナはニヤニヤと笑ってこちらを見る。
「こういう時に……使えないかなって……」
「へぇ……そっか。」
彼女は私に首輪を付けると、それを荒々しく引っ張って長い口付けをした。暴力的で、嗜虐的な夜のハンナは私の口を永遠に感じるほどに長く犯し続ける。
「いっつもいっつもえっちな事考えて、こんな物まで用意して……僕とするのがそんなに気持ちいいんだね。」
淡々と話しながら、彼女は首輪を引っ張って私の頭をベッドに叩き付ける。
「そんな悪い子にはお仕置きしないとね。」
何時間もハンナは私に虐げるような愛の表現を続けた。彼女の手が快感や痛み、苦しみを紡ぐ度に私は体で応えた。
「もう……っ……流石に……限界……」
「ふふっ……今日も楽しかったよ、アリンちゃん。」
彼女は最後に、小さな身体で私を抱いて優しくキスをした。あんな私の下劣なサインに応えてくれた彼女を、私はますます好きになった。いつまでもこんな関係が続けば良いのに……と私はため息をつく。
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