第一話 就任

~ヌリ村・村長の家~



今考えるととっとも恥ずかしい台詞と行動から一時間後、私は夜逃げした村長の家へとやってきていた。


「こ、ここが……私の拠点!」


独り言ではない。

私には同志がいるのだ。

農業の村人さんとガタイの良い村人さんは私に協力してくれるとのことで、この場所を使わせてくれることになった。


「今日からここはルヴァンちゃん、いや、ルヴァン村長のものだぜ!」


「ルヴァン……村長!!」


なんだか凄く良い、村長って呼ばれるの、すごく良いな!

私は瞳を輝かせ改めて部屋を見渡す。

とそこへ苦笑いで農業の村人さんが申し訳なさそうに私に声を掛けてくる。


「ま、まずは掃除と資料の整理からだね」


確かによく見ると若干荒れた後があった。

前村長もこの状況に悩み、考え、耐えられなくなった結果夜逃げを選んだのかな。

ううん、私は私だし、今はまずここを使える状態にしなきゃだね。


「俺達も手伝うからよ。とっとと終わらせて就任パーティでもしようぜ!」


「ま、まあパーティはともかく、僕も手伝いますので」


二人は案内だけでなく片付けにも協力してくれるらしいです。

嬉しいな、心のどこかでは誰も残ってくれないかもしれないと怯えていたから。

あとは、明日になってどれだけの村人さんが残ってくれるかかな……。

今考えても仕方ないよね、今は片付け頑張ろう!



~数時間後~


明るかった空はすっかり暗くなり、村には夜が訪れた。


「この程度、私にかかればどうってことない……ですよ?」


「あ、あはは」


私は息を切らしながらも余裕そうにそう言ったが、農業の村人さんにはまたしても苦笑いされてしまった。

荷物やゴミの量は想像以上で仕分けから外のゴミ捨て場に持って行ったりととっても大変でした。


「はっはっはっ、だから力仕事は俺に任せとけって言ったのに」


「村長が任せっきりにするわけには……」


「村長だから、だよ。ルヴァンちゃん」


「え?」


農業の村人さんは私に続けてこう言う。


「人を最も適した場所に配置するのも立派な仕事だよ。そしてそれは村長であるルヴァンちゃんにしか出来ない事さ」


「ルヴァン村長がいるから俺達はまたこうして村の為に協力し合えるんだぜ? どんどん頼ってくれよな」


あ……、少し、焦りすぎていたのかな。

なんでもやらなきゃと思ってたけど、それは違うみたい。

結果は出さなきゃいけない。

もっと上手く立ち回らなきゃだね。


「そうですね! ごめんなさい」


「謝ることじゃあねえぜ。片付けも無事終わったことだし、ルヴァン村長の就任祝いといこうぜ!」


「だってさ。どうする? ルヴァン村長」


「やりましょう!」


正直、本当は焦ってる。

それでも、今は……今くらい、いいよね?

日付が変わっても飲み続けようとするガタイの良い村人さんを農業の村人さんが止め、この日は解散となりました。


村長の家は現在私のものということで、そのままそこで寝ても良かったのだけど、なんだか落ち着かないので自宅へ戻ることに。


~ルヴァンの自宅~


ね、眠い……。

もうこのまま寝ちゃおうかな……。

い、いや駄目駄目、せめてお風呂くらい入ろう。

そう思った時、一つの本が目に映った。


「あ、これ。何も書かれてない白紙の本」


そうだ、日記を付けよう。

私の村長としての活動日記。

その日あったことを記録して、いつかは村を救った伝説の村長の壮絶な物語に……!

なればいいな。

ええっと、今日の出来事は~。



十一月四日――ルヴァン村長、誕生! 農業の村人さんとガタイの良い村人さんが仲間になってくれたよ。就任祝いもしてもらったの。明日の朝、どれだけの村人さんが去ってしま……どれだけ残ってくれるかな。今からふあ……楽しみです!



「こ、こんな感じでいいかな? よし、明日の日付も書いておこう」



十一月五日――

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