第22話 依頼

「人語を話すグミ? 人間とグミの中身を入れ替えるですか?」


 普通の学生なら長期休暇の間は羽を伸ばすための時期だが、上流貴族であるシャルメルにとって、長期休暇の間こそは貴族業で忙しい。

 そんなシャルメルの家へとアポも取らずに乗り込んだ俺たちは、昼間に話し合った事を彼女へ伝えてみる。

シャルメルは暫く黙考した後、ジム先輩へと視線を寄越した。


「どうでしょう、そう言った報告は受けておりません」

「むう、外れか?」


 やはり、噂の又聞きに仮定を重ねた推理では無理があったか?そう思っていた時だった。


「いや、そう言った方面の調査は行っていない、今現在行われているのは、あの店主の人相や足跡を当たっている調査だ」

「じゃあ先輩」

「ああ、そっちの方面も当たって見るように依頼してみる」


 ジム先輩はそう言って頷いてくれた。

 イルヤ姉たちが帰って数日では、あの男の足跡は追えていない。しかし、全く別の角度からの調査なら別の結果が出るかも知れない。


「調査、ふふふ、なにをごそごそとやっているのかと思いきや、そんな事をしてたのね貴方!」

「ん?」


 聞き覚えのある声が、ドアの向うから聞こえてくる。そして恭しくドアが開いたその先には――。


「おーっほっほっ! 水臭いわねアデム、情報が欲しいならかび臭いミクシロンでなく、我がアデルバイムに依頼すればよかったのよ!」

「エフェット!? 何でここに!?」


 そこには堂々と仁王立ちするエフェットと、オロオロとあたりを見渡すジェシーさんの姿があった。


「あわわわわ、お嬢様不味いですよ。こんな敵地で悪口なんて」

「なによ! ほんとのことを言って何が悪いって言うの!」

「ホントの事でも時と場所を選んでください、って言ってるんです」


 んー相変わらず空気の読めない主従だ。ところでなんでミクシロン家のライバルであるアデルバイムがシャルメルの家にいるんだろう。


「あら、随分と大きな口を開くのねエフェット。今の貴女は唯のメッセンジャーでしょう、用事が済んだのなら帰ってよろしくてよ」

「むきー何なのよ! この私が此処にいた幸運こそをありがたく思いなさい!アデルバイムが協力してあげようって言うのよ!」

「はぁ、困りましたわ。この子アデムに合えるかもってメッセンジャーを引き受て、それが当たったものだから舞い上がっていますの」

「べっ別にそんなこと思ってないもん!」


 わーわーとエフェットが猛り狂う。


「えっとつまりエフェットも協力してくれるって事でいいのか」

「ふふん! アデムがどうしてもって言うなら協力してあげても良くってよ!」


 ついっと、エフェットは上機嫌で鼻を上げる。


「それはありがたい、手が増えるのは良い事だ」

「いやちょっとアデム、そんな単純な事じゃないでしょう」

「ん? そうなのかチェルシー」

「そうに決まってるじゃないの、ミクシロンとアデルバイムが協力なんて出来るわけがないじゃない、ぐちゃぐちゃになるに決まってるわよ」

「うふふふ。さてそれはどうでしょうか」


 チェルシーの心配をよそに、シャルメルは微笑を漏らす。


「ジム、エフェットへ調査報告を全て渡しなさい、アデルバイムのお手並み是非とも拝見させていただきましょう」

「良いのですかお嬢様」

「ええ、構いません。これは本業とは別の独立した案件です、ここでの結果が本業にどうこうと言う事ではございませんわ」

「おーっほっほっほ! 大きく出たわねシャルメル、良いわその油断付け込ませてもらうわ!」


 うーん、なんだか知らんがエフェットは絶好調。傍に居るジェシーさんのテンションがダダ下りなのが気になるが、そこは見なかったことにしよう。

 言い方は悪いが俺にとっちゃミクシロンもアデメッツもどうでもいい、あのくそ野郎の顔面に一発ぶち込めればそれでいいのだ。





「へー、それはそれは大変でございましたのね」


 先ずは聞き取り調査とのことで、非常にやる気のないジェシーさんに事のあらましを話す。


「あのー、調子狂うんで普通のじゃべり方でいいですよ?」

「おほほほほ、今はまだメイドの時間、お客様に失礼な物言いは許されませんわ」


 ニコニコと笑って無い目でジェシーさんは俺を睨みつける。


「そこ! 何無駄話してんのよ!」

「おほほほほ、お嬢様申し訳ございません。この山ざ……アデムさんが私に色目を使ってきて」

「アデム――!!」

「俺じゃねえ!?」


 わーわーぎゃーぎゃーと騒ぎまわる。どうやらジェシーは王都と言う敵地に置いて、単独でミクシロンの情報部と争わなければならない状況に不満を抱いている様だ。

 

「いや、お嬢様。そりゃ私は元情報部ですけど、欲しいものをパッと行ってパッと見つけるられるような変人じゃありませんって。依頼ならちゃんと情報部に言ってくださいよ」

「むきー! 貴方それでも私のメイドなの!?」

「メイドなんですよ残念ながら。そりゃ王都に伝手は無いって事はありませんよ、こう言った事は王都の支部を通してからですね」

「そんな時間ありはしないでしょう! 私は明日にでも帰らなくちゃいけないのよ!山の様なおけいこ事が積もり積もって待ってるんだから!」

「だったら、王都くんだりまで来なけりゃ良かったじゃないですか」

「アデムに合えたんだから全部チャラよ!」


 他人の家の客間で大げんかするエフェット主従。うん、仲が良くて何よりだ。


「なぁエフェット、無理してもらわなくても、情報部とやらに話を通してくれるだけでも大助かりなんだけど」

「いやよ! この件は私が解決してあげるの!」

「実際に動くのは私ですよねぇー」


 シャルメルの家にジェシーさんの慟哭がため息となって漏れ出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る