第3話 いい友を持つというのは良い事だ

 突然だが、僕はあまり話したことのない人に向かって、笑った事はほとんどない。ほとんどといいうか、全くないだろう。

 自分で言うのもなんだが、僕は人見知りである。気の知れた人が相手なら普通に話せるし楽しく会話もできる。

 しかし、初めて話す人が相手となると、その難易度はぐっと上がる。

 つまり、何が言いたいのかというと。僕が今からやろうとしている、本田さんと仲良くなる、というのは、本当に難しいことであるということだ。

 なんて、言い訳をしている暇がないことは分かっている。

 僕はただ本田さんと話せるようになりたいわけではないのだから。

 仲良くなって、放課後や登下校を一緒にするほどの仲になるまで、膨大な時間がかかるだろう。

 だから早く行動しなければならないのだ。

 そう思って、からかいの声も無視して本田さんに笑いかけてみたのだが。

「何あいつ、茜を見て笑ってるぞ、きもっ! 今日は災難だなあ、茜」

「え? あ、あぁそうだね。正直笑いかけられるとは思っていなかったな」

「だろ? マジウケる」

「えー、多分けーと君、茜のこと好きなんじゃん? しょーがっこーから一緒だったんでしょ? 茜は可愛いもんねぇ。うちも茜みたいに可愛くなりたいなあ」

「うわ、だとしたらイタいやつだな」

「ちょ、颯もひまりもやめてよ」

「ええい、このこの~」

「ほんとにやめてって。……たぶん、そういうのじゃ、ないと思うから」

「そーかなー」

 はい。すみませんでした。完全にタイミング間違えました。さっき早く行動に起こすのが大事なんだとか、それっぽいこと言ってしまったこと、謝罪します。タイミングは大切です。

 今本田さんと一緒にいたのは、クラスの中でもかなり中心にいるメンバーだ。

 本田さんはなんか僕のことを擁護してくれていた気がするけど、聞こえてきた会話で僕の心は打ち砕かれた。

 今日はもう何もできそうにない。 作戦は明日からスタートにしよう。

 持っていた本をぱたんと閉じ、机に突っ伏す僕。遠くから、僕を見て笑う二人の声が聞こえてくる。というかもうそれしか聞こえない。

 ああ、誰か助けて。

 そうしてじっとすること数秒。

「おい、慧斗。どうした。なんか今にも死にそうな顔してるぞ」

「ふぇ?」

「ふぇってお前、何かあった?」

「奏汰ぁ……」

「はいはい、お前の親友、広瀬奏汰ですよ。何かあったなら、相談乗るけど?」

 おかしい。奏汰はこんなに優しいやつではなかったはずだ。

 それは、親友である僕が一番よくわかっていること。

 やはり、これは夢の世界……?

「奏汰は相談に乗ってくれるほど優しいやつではなかったはずだ」

「失礼極まりないなおい。そんな泣きそうな声出されたら、ほおっておく方が頭おかしいだろ」

「そんな声、してたか?」

「あぁ。まあどうせ、話したことないやつに話しかけようとして失敗したとか、そんなとこだろ」

「う」

 やっぱり奏汰は僕の親友だ。僕のことをよく理解している。

 それから、意外と優しいやつだということも判明した。

 このことを、奏汰になら、話してしまってもいいんじゃないだろうか。

 考える。

 奏汰は僕と同じ高校に進学した。不登校になってしまった僕に、「まぁ、慧斗の好きにしたらいいんじゃねえの? お前が学校に来なくたって、俺らは友達なんだから」などというとてもいいことを言ってくれた人でもある。

「おい、何ぼーっとしてんだよ?」

「あ、ごめん。あのさ奏汰、放課後、話したいことがあるんだ」


 放課後。

 結局、僕たちは家が近いので、帰りながら話をしようということになった。

 なれない学校で体力を消耗しきった俺は、半ば奏汰に支えられるような形で歩いていた。

「お前、今日マジでどうした。朝からなんか変だぞ? そこの公園で休んでいくか?」

 奏汰の目線の先には、緑が魅力的な公園があった。一瞬いいかもと思ったが、そこは地元の小学生に人気な場所でもあったことを思い出し、それでは逆にまた疲れるだけだろうと、奏汰のありがたいお誘いを断る。

「いんや、大丈夫だ。なれない学校で疲れただけだし……」

「は? お前何言ってんの?」

「あ。いや、うん。奏汰、今日僕が話したいことなんだけど。少し今の僕の発言にも関係があるんだ」

「お、おう」

「信じられないと思うけど、聞いてほしい」

「おう」

「悲しい思春期の妄想だとか思わないで、信じてほしいんだ」

「わ、分かった」

「実は……」

 僕は今まであったことを、奏汰に話した。

 僕が話している間、奏汰は少し不思議そうな顔をしていたが、特に僕を疑うようなことは言わずに、話を聞いてくれていた。話し終わった後、奏汰は一言目にこう言った。

「うーん。にわかに信じられないような話だけど、それ、本当のこと何だろ?」

「あぁ。信じてくれるか?」

「そりゃあ、お前の言うことは信じるよ。基本的にはな。それに、お前が思い人のことを死ぬなんて普通言わないだろうし?」

「そっか。ありがとうな」

「いや。あー、それでなれない学校って言ったのか。うん、今日のお前の動きもお前の話を聞いた後の方が納得できるよ」

「そうすか……」

「それってさあ、俺は今高校生の慧斗と話してるってことだろ? なんか変な感じ」

「でも学校に入っていないし人ともあまり話していないから、精神年齢は変わらないと思うよ」

「はは。で、俺は慧斗に協力すればいいんだな?」

「え? あ、別に協力してほしいとは思っていないよ。ただ、話しておきたかっただけ。でも、協力してくれるっていうなら……」

「頼まれなくても協力するよ」

「そか。ありがとう、助かるよ」

「おう」

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